マティス

男と女、モントーク岬でのマティスのレビュー・感想・評価

男と女、モントーク岬で(2017年製作の映画)
3.8
フォルダ保存か上書き保存か


 「とんでもないことをしてしまったことを後悔するのか、それとも自分がチャレンジしなかったことを後悔するのか。この2つの後悔が人生を形作る。」という主人公のセリフで始まるこの映画は、私には示唆に富んだ内容で、思わずわが身に置き換えて苦笑する場面がいくつもあった。

 恋愛の記憶を、男性は「フォルダに保存」、女性は「上書き保存」とよく言う。つまり男性は未練がましく、女性は切り替えが早いということを言っていると思うのだが、この映画もそのように描かれていた。そして記憶はえてして美化され、自分の都合の良いように書き換えられる。思い出補正というやつだ。そう言えば、以前観た「ベロニカとの記憶」も同じような描き方をしていた。

 しかし、男性はつくづく(私が男性全体を代表するかのように発言するのはおこがましいと思うが)楽天的でどこか抜けている生き物だと思う。失って初めてその大切さに気付くなんて。

 この映画は長いセリフが多いが、どのセリフも吟味されていて、心地よい緊張感があった。

 エンドロールで、マックス・フリッシュに捧ぐという献辞が出てくるが、この作品は監督がフリッシュという小説家の自叙伝的な作品「Montauk」に着想を得て、脚本から関わって撮ったそうだ。当時もうすぐ80才という監督がこんな艶やかな恋愛映画を撮るなんて! とても感心した。「Montauk」の翻訳は出ていないようだったので、別の小説を読んでみたいな。


P.S.私は「とんでもないことをしてしまったことを後悔するのか、それとも自分がチャレンジしなかったことを後悔するのか?」と問われれば、きっと後者の後悔を避けると思う。若い頃だったら分からないけど・・・。
マティス

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