シズヲ

アロウヘッドのシズヲのレビュー・感想・評価

アロウヘッド(1953年製作の映画)
3.0
ここまで来ると現代では到底受け入れられない内容なので清々しい。『折れた矢』は主人公がインディアンの文化に触れた為に彼らを擁護するが本作はその逆で、予めインディアンと共に生活してその文化を理解した主人公が彼らを容赦なく敵視する。作中のアパッチも主人公の主張を裏付けるように狡猾で残忍な敵として描かれているので徹底している。インディアンと戦う西部劇は数多く存在するものの、本作の敵対描写は特に自発的。ジャック・パランス演じるトリアノは“白人の文化を触れた上で激しく敵対する”という部分で主人公と対比されているのが印象的。トリアノが作中で「この土地には我々が住んでいた、白人は後から来た余所者だ」と演説するが普通に正論なので妙な趣がある。

チャールストン・ヘストン演じる主人公が終始アパッチの凶暴性を訴えかけているが、その言動にあからさまな憎悪が滲み出ているので一々そわそわさせられる。そうなってしまった理屈は作中で語られるのだが、それにしたってギラついているので色々と恐ろしい。最早『捜索者』の主人公のようなダークヒーローの類いである。その上で彼の主張が“正論”として描かれているので、本作のアンチ性は殊更に際立っている。『ホンドー』のジョン・ウェインですらインディアンの文化をある程度尊重していたのになあ。「上映された頃には既に“アメリカインディアン国民会議”のような権利団体もいたのに大丈夫か?」と心配になってしまう。融和的姿勢が否定されて排斥が肯定される内容など、当時盛んだった“赤狩り”との関連性も語られているらしいのが興味深い。

物量こそ多い割にアクション的な見せ場はそこまで記憶に残らないので特段優れた作品でもない(ただ空を背負って立つインディアンの撮り方は何れも中々格好良い)。とはいえ異文化との歩み寄りや相互理解を否定し、あくまで敵として対峙するしかないという観念はある意味で後年の『ワイルド・アパッチ』に近い。異文化に精通した人物を主役側に配置している点も近しいけど、あちらはより深い諦観や白人側の偽善も経た上で“異文化の存在”を受け止める内容だったので感触は大分異なる。
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