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焼肉ドラゴンのneroのレビュー・感想・評価

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
3.0
原作というかオリジナルは舞台劇だそうで、映画も実に演劇的だった。
在日コリアンを描いた内容は重いし、登場人物の掘り下げも深い。一つの家族が異邦で苦労を重ね、なお未来へと向かおうとする姿は感動的だったが、オープニングとクロージングに、途中で退場する息子のナレーションを入れた意味がわからない。言葉を失った息子だからこその演出なのだろうが、舞台なら有効でも映画としては違和感しかない。

全体に映像としての世界の広がり感・立体感がもう少し欲しかったかな。
例えば、店以外の生活空間の描写もないし、長屋も常に同じアングルで、他の住民も住居の内部等もまったく見せない。マット背景では当然”街”感・居住地感が出るわけもない。そのため立退き処分への切迫感も不足してしまう。だいたいこれは途中で伏線が必要でしょ。
あるいは、子供の哲男と静花が飛行場へ侵入するシーン。ここは静花の受傷まできっちり見せるべきだろう。
また、哲男の生業も描写されず、釜ヶ崎(?架空の地らしいが)の実情を見せるには、高度成長期の日本社会との落差の表現が足りないって印象。舞台じゃないんだから、万博なり新幹線なり、1970年の”世間”をちゃんと映像で見せるべきなんじゃないか? ”外”の世界との関わり感がもう少し出ていればと思った。
予算がないとかって理由だとしたら、角川さんあまりにも情けないよ。

役者の演技は実に見事。特にオモニ/アボジの二人の存在感はスゴイ。ラストカットは最高だった。ただ、父の腹は片腕を隠してる感が気になるので、もう少しボディを作り込むなりCGなりで自然さを出して欲しかったな。
三人姉妹も周囲の人々もそれぞれ個性豊かで魅せてくれる。大泉洋はホント器用だねえ。(「俺は北へ行く」ってセリフで一瞬北海道?って思っちゃったのはゴメン) ダイアローグ主体のドラマだけに、息子役の大江晋平の絶叫が強く印象に残った。

地域性もあろうが、正直、在日コリアンとの関係性をまったく意識せずに育った自分としては、例えば「パッチギ」とか「月はどっちに出ている」といった映画を見ても、その被差別感に感情移入はできない。もちろん差別側の心理も理解できない。
歴史として済州島の虐殺事件は知っている。本編中では終盤の龍吉親父の独白でちょっと触れられただけだったが、ここで初めて母・英順が南から来た人間であり、南北分断まで含んだ設定だったことを理解した。緊迫感あるシーンではあったが、全部父の言葉で説明するしかなかったのかなあ、とは感じる。
その程度の背景理解のせいか、本作も家族ドラマとして十分感動するが、出来上がりに”映画感”が不足していることの方が強く気になった。TVドラマなら最上級かもしれない。
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