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愛しのアイリーンのneroのレビュー・感想・評価

愛しのアイリーン(2018年製作の映画)
4.5
血と肉と心と、それぞれは交わることなく重なり合う。そんなディスコミュニケーションの悲喜劇を地方の閉鎖社会を舞台に描いた傑作だよこれは。親の呪縛に悶える安田顕はじめ田舎のブス・ブ男ばかりの身も蓋もないドラマに翻弄される。皆ただただ愚かで愛おしい。

ヤスケンベストアクト! ヤクザ役伊勢谷友介は(ホモっ気もなく)さすがにちょっとカッコ良すぎだが、ゲスい斎藤さんもビッチの愛子さんも良かった。包容力とエロスに満ちたマリーンも、もちろん純朴さ全開のアイリーンもね。
原作の過剰な表現をうまく現実の映像に落とし込んで、エンタメとしてまとめきったのはお見事。実に緻密な脚本そしてカメラワークだと感じた。原作ではやや蛇足っぽくも感じたラストを切り飛ばしたのも成功だと思う。
というかほぼ木野花バアさんの映画になっちゃってるが、それもまたよし。

新井英樹の原作コミックが連載されたのが1995年。その時点で、かつての円も強くアジア諸国からの出稼ぎが急増して”ジャパゆき”が流行語になった1980年台前半とはすでに状況は変わっていた訳だが、高齢化する地方社会だの、農家の嫁問題だの、外国人妻だの、偽装結婚だのといった社会が抱える問題はさほど好転したわけでもなく、連載時には「また微妙なところを狙ってきたなあ」という印象だった。(ちなみに次の連載はあの「ワールドイズマイン」だ)
原作ではアイリーンのキャラクターはもう少し幼く設定されていたし、それによるドタバタコメディ感が後半の殺伐展開も重さを和らげていた。作者自身も結末に救いがなさすぎると感じたのかもしれない。原作では再婚したアイリーンが岩男との子供を抱いている姿で終わっていたはずだが、自分は映画版のエンディングを支持するね。

ひとつ引っかかったのは、なぜ現在に設定したのかということ。(ヤクザのスマホに唐突さを感じたくらい) なまじ今の時制に持ち込んでしまうと、現在のフィリピンの状況や対日感情をどれほど反映したものになっているのか、という疑問が湧く。日本側でも特に入管関係では大きな問題となっているわけで、そうした時代性の変化は避けられないはず。
90年代の再現は難しくないだろう。パチンコホールの再現が面倒なくらいかなあ。携帯普及以前の時制に徹底したほうが良かったと思う。

パチンコといえば、あのポスタービジュアルは感心しないなぁ。全くベクトル違わんかい?
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