horahuki

ヘレディタリー/継承のhorahukiのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.5
めちゃくちゃ面白かった!!
今年ベスト級に止まらず、ホラー映画史に名を刻むレベルの傑作ホラー!!
今年の期待度の高さで個人的に双璧だった『クワイエット・プレイス』があんまりハマらなかったので不安だったんだけど、こっちはめちゃくちゃハマった!

近年は家族崩壊の危機を作中に取り入れたホラーが非常に多いように思います。今年の有名作だけでも『聖なる鹿殺し』『クワイエット・プレイス』『テルマ』などなど。親子という親密かつ小さな単位の関係ですら希薄になりつつある現代を反映した結果だと思いますが、本作もその系統かつ他作とは一線を画す「呪い」を描いた凄まじい作品です。

とにかく緻密。ただ前半はかなり情報過多。セリフやテロップだけでなく映像によって様々な情報を提示し、ひたすらに伏線を張り巡らせていく。物語的には確かに繋がってはいるんだけど、「この映画何が言いたいんだろ??」的な疑問符の浮かぶシーンが次々に展開していき、自分の中で整理しながら付いていくのが結構大変でした。

でも中盤あたりでギアがドライブに入った後には積み上がった違和感がピースをはめるかのように急激に結びつき始め、その次第に明らかになっていく真相にテンション爆上げ。

そして本作の最も緻密なところは、前半にばらまいたピースが組み上がっていくに従って物語的に完成していくだけではなく、観客が恐怖を感じる為の土台をも同時に形成してしまうところ。そこに大きく寄与してるのは『ローズマリーの赤ちゃん』でも見られた、精神耗弱による幻覚・妄想なのか、それとも超自然的な何かの仕業なのかという両輪を損ねることなく展開させる脚本の巧みさ。そして自分の存在価値を見出す「仕事」に逆に精神をすり減らしていく主人公の病的な危うさを描き、親としての決して許されない過去の過ちから導き出される母親性の揺らぎがその結論を最後まで煙に巻きつづける。こういったところは『シャイニング』に近いように思います。ここが本テーマと言っても良いほど丁寧に様々なことに起因する親としての揺らぎと葛藤を描いている。

最初はとても裕福かつ幸せで理想的な家族として描かれる主人公一家ですが、祖母の死から始まる違和感の積み重ねにより、彼らが孕んでいる危うさに触れ、その家族としての理想像から少しずつ逸脱させていく。ただそのどれもがバラバラのベクトルを向いたものであり、観客からしたら不明瞭な危うさの連なりにしか思えないため、「何となくおかしい」という感覚を与えつつも、その根底にあるものが見えてこない。そういった地に足のつかないようなグラグラした不安定な居心地の悪さを意図的に観客に与え続けることで、それに一本線を通すかのような終盤からクライマックスが非常に大きな高揚感を与えてくれる。

『回転』を根底に置いた彼方と此方の境界を意識した演出に『インシディアス序章』のような境界を跨ぎ此方に訴えかけてくるという怖さ。ジェームズワンのような一定箇所に対する負の滞留による印象付けや同一画面内に複数の空間を配置することにより「何かが映り込むかも…」という嫌な予感を徹底的に植え付けてくる非常に優れた恐怖シーンが素晴らしい。しかも無闇矢鱈と恐怖シーンを挿入するのではなく、十分な準備運動をした上で満を持して登場するためひとつひとつの破壊力が途轍もない。

表層的に捉えると笑ってしまうようなシーンがクライマックスの非常に重要なところに配置されているのですが、それがいかに異常なのかということ、そしてそれらが現れる必然性とその姿で現れることの意味をそれまでに時間をたっぷりかけてとことん観客に訴えかけて土台を丁寧に形成してるからこそ、決して笑うことができないものとして圧倒的恐怖と嫌悪感を演出することに成功している。絶対にアレで笑うことはできない…マジで怖いです。ラストに「下る」ではなく「上る」とした監督のセンスも凄いし、ミニチュアに見立てたことも非常に効果的だったと思います。

そして本作が根底に置くのは非常に現実的な恐怖。継承というタイトルは最後まで見れば意味合いはわかるようになっているのですが、それは象徴的なものに過ぎず、親の死によってもたらされる残された家族に対する現実的な負の影響と崩壊を描いている。そしてそれは単純な死から来る内部的なものかも知れないし、本作のように外部にも起因するものであるかも知れない。いずれにしても残された家族は子孫である以上それから逃がれることは決してできない、家族という名の呪い。

『リング』のような鏡などの小道具にも過去のホラー映画へのオマージュ的なものが見え隠れするし、きっとホラーが好きな監督なんでしょうね。次作もホラーのようですが、他のジャンルに行ってしまっても定期的にホラーを撮って欲しい素晴らしい監督だと思います。本作を生み出してくれたことにマジで感謝!圧倒的に今年No. 1です!

追記
冒頭、ミニチュアへのクローズアップを『シャイニング』からの引用とする記事を見かけましたが、私は『ホフマン物語』のオープニングからの引用のように感じます。
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