ーcoyolyー

博士と狂人のーcoyolyーのレビュー・感想・評価

博士と狂人(2018年製作の映画)
3.9
私これロシアの話で主演がジェレミー・アイアンズだと思ってたんですよ。以前金田一秀穂先生が「ロシアでは辞書編纂は囚人(政治犯)の仕事」と仰ってたのが印象に残っていた割にどこかにオックスフォードは残って引っかかっていてオックスブリッジの教授役やりそうな人=ジェレミー・アイアンズで変換してしまったんではないかと思うんですけど。
なので舞台がロシアじゃなくて大英帝国であって主役がジェレミー・アイアンズではなくてメル・ギブソン(ジェレミー・アイアンズではないことに混乱して目の前の人が誰か全然認識できなくなって即調べた)である事実を理解して腹落ちするまでに結構時間がかかった。辞書編纂で狂人と言われたらドストエフスキーのイメージが即座に出てきてしまってこういう勘違い引き起こしたんだとも思う。ショーン・ペンは実際ドストエフスキー映像化で出てきてもいい仕事しそうだしさ……

内容としては辞書編纂をインテリ囚人の仕事にするのは中々合理的でwin-winなのではないかという結論に達してしまう。
だってあれ結構な苦行だよ、私は校閲得意な方ではあるけど辞書と『金枝篇』の校閲だけは考えるだに卒倒しそうになりますよ。職能としてかなりのスキル持ってる人でもごめん被りたいと逃げるよ。(『金枝篇』今図書館で借りられる最後の7巻までようやく辿り着いたんですけど、これ実は全10巻でまだシリーズ全巻発行完結していないことが最近発覚してビビった。2004年に第1巻刊行、7巻目が2017年刊行で8巻目が今年出るか出ないかくらいらしい。何だかんだで完結まで30年かかるんじゃないのかな)(編集・校閲界隈の人間が読むとそれだけ時間かかるの納得はしますよ……)(関わっている人たちに尊敬と労りの眼差しが向けられること不可避)

そしてショーン・ペンは狂人扱いで最終的に統合失調症と病名付けられてるんですけど、現代医学で見るなら統合失調症というより戦争帰りのPTSDでおかしくなってる人で、それは他人事ではないので身につまされた。このショーン・ペンの描き方によりメル・ギブソン主演の反戦映画にもなっていて味わい深かったです。メル・ギブソンがメル・ギブソンに見えないくらいの反戦映画です。
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