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劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズのkomoのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

サンライズさん、こだま監督、シティーハンターへの愛を止めないでいてくれてありがとうございます…!
私はリアルタイム世代ではありませんが、原作は読了済、TVシリーズもある程度観ているライトなシティーハンターファンです。新作が決定してからとても楽しみにしておりまして、期待通り多幸感たっぷりで楽しめました!

ただ、他の方がおっしゃっているように、"2019年の現代アニメとして成功している"とは手放しでは言い難いです。
やはりこの作品が生まれた時代ならではの背景、小道具、人情劇を全て持ち込めたわけではありませんし、『現代の新宿』という舞台とキャラクターの擦り合わせが完璧でないとおっしゃる方がいるのも頷けます。

ですが若輩者の一ファンとして、『時代が変わっても冴羽獠の稼業が成立している』という事実はシンプルにとても嬉しいのです。新しい時代の上で同じ世界観を組み立ててくださったスタッフの方々にありったけの感謝を送りたいです。

今作のヒロイン・亜衣が獠に依頼をかけるシーン。そのシステムからして「なにそれ!?」と思ってしまうのですが(笑)、ここはまさかのED後の小ネタへの伏線となっていました。
そしてこの亜衣という限りなく現代的な女の子の視点で進む物語が、80〜90年代の住人である獠たちを、今回のスクリーンに馴染ませてくれています。
街頭でCMモデルを務める亜衣は、謂わば2019年の新宿の『顔』。
それでも、その新宿はやはり獠の庭。

シティーハンター(以後CH)のTVシリーズはほとんどが1話完結型のストーリーで、毎回話の流れに大まかなテンプレのある、いわゆる水戸黄門方式の作品でした。
今作もストーリーの起伏としてはCHの王道展開をなぞっています。しかし今作では亜衣と獠が、流れる時代や物語の法則の中で互いに引っ張り・引っ張られしてゆく要素があり、非常に新鮮味のある趣きとなっていました。
そういった意味でも私は今作の方向性をとても好ましく感じます。
亜衣というキャラクターは一見CHキャラらしさが無いのですが、展開が進むにつれ、従来のヒロインに当てはまる『北条美人』の法則をしっかり踏襲しているのを感じ取ることができました。

しかしやはり、CHの最たるヒロインは香さん!
のっけから2019tハンマーを持って大暴走してくれています。
それでもヒロインとしての香ちゃんが好きなので、多くの女性の中でも特に注目を浴びてお姫様扱いされる展開が嬉しかった〜!
伊倉一恵さんのハリとツヤが健在のお声に感激でした。

冴子さんの投げナイフも新作画で見られて眼福でした(コメディシーンでしたが)。冴子さんは過去シリーズに比べると少しお顔が男前な配分になっていて、現代作画における他の女性キャラクターとの良い差分になっていると思いました。

海坊主は時代に流されないキャラクター代表……かと思いきや、お手伝いロボットとのまさかの交流が!
最近ではスピンオフ漫画まで発売されている海坊主さんなので、このくらいお茶目なキャラクターでもいいかなと思います。
後半の戦闘シーンは見せ場づくし。獠とルートが分断されてからの美樹と合流→一番格好いい形で命からがらの獠とも合流、というのが最高にアツかった!
機械の敵に対してセオリーを駆使してゆく戦い方も彼らしいし、肉弾戦もあって最高でした。

海坊主と美樹さんの絆はやはり美しかった。ものすごくロマンスでした。喫茶でのやり取り&実践でのコンビネーションでお二人の信頼関係をたっぷり見せてもらえて満腹です。

そして冴羽獠はと言うと、上記のキャラクター以上にTVシリーズそのままでした!
ギャグとハードボイルドの配分しかり、依頼人や視聴者にとっての一番の理解者でいてくれるところも。
神谷明さんが続投してくださって本当に本当に良かった。演者のお人柄もあっての冴羽獠だと思っています。神谷さんがツイッターでCHを話題にされているのを見るたび、作品への真摯な情熱に胸が温かくなります。

それから、今作最大の敵である御国真司。
山寺宏一さんはTVシリーズでもかなり多くの役を毎週演じていらしたので納得のキャスティングです。
しかし世界を掌握できるほどの条件を揃えた男が、冴羽ひとりに執着したことによって自滅する展開はツッコミどころ満載ではありました。笑

しかしながら、これほど存在の大きな敵に、それも2019年というご時世において、『強さ』という点において恨まれてしまう冴羽獠はやっぱり格好いい男なんです…。
"冴羽獠に翻弄される人間"がムキになればなるほど、シティーハンターという作品は魅力的になります。
それは物語の『綻び』ではなく『宿命』なのだと私は捉えています。

そして、キャッツアイ三姉妹の友情出演!
キャッツアイと香の空中タッグは熱すぎました!
ご逝去された藤田淑子さんに代わって、瞳役の戸田恵子さんが泪役も兼任されていました。台詞数は少ないのですが、藤田さんへの深いリスペクトが漂う名演でした…。
これだけでも目の奥が熱いのに、エンディングテロップで『in memories of 藤田淑子』の文字。スタッフの方々の温かい心遣いが沁み入ります。
愛役の坂本千夏さんもずっと若々しいお声でびっくりです!


BGM(TVシリーズ主題歌)に関しても胸アツの連続で、各楽曲のCHにおける役割が十分に発揮されていました。

OPを飾るカーチェイスでは不安定な夜を歌った名曲『Angel Night』、
若いモデルが集うシーンでは女心をちょっぴり皮肉った『Super Girl』、
獠が余興をするシーンでは最高にアップテンポな『ゴーゴーヘブン』、
窮地を脱するシーンでは男の強さが滲み出る『セイラ』、
美樹が先導した突撃のシーンでは艶やかな『FOOT STEPS』、
終着のシーンでは初代OPの『愛を止めないで』。
そしてエンディングはもちろん『Get Wild』。

エンディングのイントロに掛かる獠のモノローグは、TVシリーズからずっとこだま監督が考えて来られたそうです。今作で担当したのも勿論こだま監督。獠にしてはめずらしい素直な言葉で締めくくられるのが、もう……!
EDテロップではスタッフロールの隣で、TVシリーズの名シーンが新作画でプレイバックされていました。まさか槙村にもまた会えるなんて…。

言ってしまえば今作は新規層の取り込みよりも往年のファンへのサービスが主であったと思います。それでもOVAではなく劇場でやってくれたのが最高にありがたいポイントです。

シティーハンターという作品は、時代が生み、時代に求められた大傑作だと思います
(あとの時代に生まれた者が言うのもおこがましいですが…)。
だからこそ、その愛されたキャラクターやその演者さんがそのままの体制で私たちの時代へやってきてくれたことが心から嬉しいです。

今作はSNS上で「ラーメン屋でラーメンを頼んだらラーメンが出てきたような映画」だと話題になっています。この感想に共感する人が多いというのは、今作の価値に気づき、そしてそれを飲み干した人が大勢いるということだと思います。
世の中に面白い映画はいくらでもあれど、ここまで『常連客の好む味』を知り尽くしている作品に出会うことはもうできないかもしれません。
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