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止められるか、俺たちをのYACCOのレビュー・感想・評価

止められるか、俺たちを(2018年製作の映画)
3.5
若松プロダクションによる、白石和彌監督、そして故若松監督を井浦新が演じる今作。若松監督の遺作となった「千年の愉楽」は初日舞台挨拶付を見に行った。その時も登壇した出演者たちの監督への愛とその熱さを感じたものだったが、今作にも同じものを感じた。
若松監督というのは人にとても大きな影響を与え続けた方だったのだろう。彼のパワーやこの映画でもよく出てくる怒りのような感情は若松監督が作る映画からも感じられたが、傍にいて一緒に映画を作っていた人たちは、恐らくもっと強烈なものを感じていたに違いない。

そんな若松プロダクションで作られる、若松監督の映画かと思いきや、少し違った。若松プロダクションにいためぐみという女性の視点から若松監督や、その仲間たちが描かれいた。ど真ん中ではなく、かといって全く外の人間でもない。その距離感が映画館で見ている私にはちょうど良かったように思う。

また、彼女があの時代にピンク映画を作るということに全く迷いを見せない感じが良かった。(でも、彼女が女であることはこの映画の後半彼女に陰りをみせることとなるのだが…もう少し何かが違ったら、彼女は違ったのだろうか。でも、どうすればよかったのだろうか)しかし、門脇麦ちゃんみたいなかわいい子がいたら男性の反応はもっと異なるのではないだろうかと思ったのは私だけだろうか(笑)

この映画は何かを作るということにこだわり、思いを貫き通す故若松監督を描くとともに、何かを作りたいという思いを強く持ちながらも、何を作りたいのかわからない側の気持ちも描く。

夏目漱石の夢十夜の話のひとつに、たしかこんな話があった。有名な仏師が木のなかに仏像がいるのを掘り出すだけなのだというようなことをいう。実際、仏師にはその姿が見えるようで、素晴らしい仏像を生み出す。それをみた男は、帰って自分も木を見てみるけれど、どんなに見つめても自分には木のなかにいる仏像が見えない。

創造するということは、なにかを作りたいという気持ちだけでは出来ない。しかし、強い思いがなければ、作りたいとも思わないはずだ。それなのに、気持ちだけでは、そこにあるはずの仏像は見えてはこない。そんな経験をしたことがあるものがこの映画を見たら、なにかしら感じるものがあるのではないだろうか。そんなことを若松監督と当時の若松プロダクションの姿から私は感じた。

次回の若松プロダクションの映画を楽しみに待とうと思う。
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