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LETO -レト-のalmosteverydayのレビュー・感想・評価

LETO -レト-(2018年製作の映画)
3.5
伝説的バンド「キノ」のヴィクトル・ツォイが世に出るまでを描く…とは言え、バンドはもとより世情もろくに分からないまま触れる80年代前半のロシアはやけに謎めいて見えました。端麗なモノクロ映像も、着座かつ監視つきで催されるライブの物々しさも、劇中ただ一人の東アジア系であるヴィクトルの異形感も、何もかもが普通じゃなくて古めかしくておとぎ話のようだった。あるいは歴史上の資料映像か。

ヴィクトルの才能を見出し表舞台に引き上げるマイクとその妻ナターシャとの関係もこれまた謎めいていて、夫婦が既に子をもうけているとはにわかに信じがたいほどふわふわと危なっかしいというよりやたら直截的、にも関わらず混じりっ気なしに真っ直ぐなんですよね。パートナーではない別の人への好意はあやふやなままにしておいてやりたいことだけはっきり告げる、それを聞かされた側も否定しない、って2020年現在においてもまあまあ突飛な関係性だと思うんですけど、そこら辺もおとぎ話感を醸し出すのに一役買ってるんではないかしら。

それより何よりこの映画を印象を強力に際立たせているのは、サイコ・キラーほかミュージカル&フィクショナルな演出の数々でしょう。派手に殴られたり撃たれたりするのもあながち妄想とは言いきれそうにない世相のヒリヒリ感、街中の老若男女が異国のロックをたちどころに歌いはじめる驚き、海の向こうのNYでは同時代に前衛アートとして認められつつあったグラフィティをも思わせる映像処理、狂言回しのように繰り返し現れる眼鏡の男の挑発的なしたり顔。これまで何度も聴いてきたおなじみの曲たちに新たな意味が付加されるという、長く生きてもそう味わえないであろう瞬間に立ち会ってしまったという新鮮な驚きに満たされました。そういう意味では、自分の記憶の奥まったところに長く残り続ける作品になるだろうなという確信に近いものがあります。

それはそれとして、80年代前半ってことはですよ。ここ日本ではそれから10年も経たないうちにジュリ扇ブームが到来していることになるわけで、自分の中の時代認識がどうにも上手く繋がらなくて頭が混乱してきます。一方、サンクトペテルブルクがレニングラードと呼ばれていた時代と言えばずいぶん昔のことのような気がするのもまた事実なわけで、そういう意味でもモノクロ映像という判断は正しかったのかもしれません。マイクのバンドに帯同する(あるいは監視役だったのかもしれない)カメラクルーによる映像だけはカラーで映し出される、という演出も凝ってた。ただひとりその先の海へ向かって駆け出したあの彼はその後どうなったんだろう?
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