140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ワイルド・スピード/スーパーコンボの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

3.8
【キース・ムーン】

夏の繁忙期の切れ目を狙って職場の友人と「健康的な映画を見る会」として、本作「スーパーコンボ」をレイトショーで見てまいりました。友人は序盤の会話シーンで仕事の疲れから寝てしまったのですが、アクションが始まるとうるさくなるためそのたびに目を覚まし進行するストーリーを追いかけておりました。上映が終わり飲み屋で朝まで感想を酒飲みながら言い合うコーナーに移ったのですが、これが不思議でしてね…友人は上映中何度か寝てたにも関わらず作品を語る上で殆ど情報を逃しておりませんでした。実は本作はアクションが点と点で繋がることで合間の会話シーンで寝てしまっても大丈夫という実にレイトショーを気遣う映画になっています。会話シーンで寝入っても騒がしくなったら起きるを繰り返すことでアクションシーンは見逃さないですし、特に序盤のウィルスの設定だけ知っておけば途中合流も許してくれる寛大な娯楽巨編です。

そんな前置きはさておき、ストーリーや展開はアクションの狂言回しみたいなもので、とにかく啀み合う2人が共闘していく様をゴリゴリのマッチョイズムとスタイリッシュな格闘アクションと各場面でタイトル詐欺防止のカーアクション導入で味付けしてます。物凄い量のマヨネーズがかけられた肉料理を食している気分です。しかしながらデジタルアクション時代において逆行するようなアナログアクションが展開され、作品が進むごとにアクションの歴史が退化していき削ぎ落とされ、顕わになった80~90年代アクションの汗が飛び散る爽快感が味わえます。本作の原題が「ホブス&ショー」から読み取れるのは、シルベスター・スタローンとカート・ラッセルの2大スター共演の「デッドフォール」(原題:タンゴ&キャッシュ)の温もりです。敵のアジトを爆破してカーアクションをするクライマックスとの呼応や、敵に捕まり電気責めを喰らうシーンなど前時代的にもほどがあるオールドスクールなアクション映画です。相手はデジタル時代の仲間を持たぬ個性、対するは肉体でアクションを奏で家族が物理的に繋がる体温のある集合体です。テクノロジーに汚染されたビル街から突き抜ける自然と青空や落ちる夕日を美しく描くサモアへの対句は完璧で、ゴリゴリのアクション仕様ですが確実に伝わるハートフルさが堪りません。冒頭の画面分割で見せる田舎生まれのマッチョイズムと都会育ちのダンディズムの対比は「君の名は。」を想起させてくれました。哲学的に文明批判論を振りかざす以上に強烈な家族、友人の物理的コンビネーションがテクノロジー汚染をぶん殴るシーンは燃えます。画面映えしか考えていない豪雨の格闘シーンに、アクション映画の泥草や体温を感じられる心温まる娯楽作であったと断言できます。