小

銃の小のレビュー・感想・評価

(2018年製作の映画)
4.0
人間が壊れる危うさが今、内外両側から高まってきているのかもしれない。同時期に公開中の『銃』と『斬、』を観て、そんな気がしてしまった。

物質的に豊かになり「誰とも付き合わず、一人で生きる」ことが可能になると、人は自分の気持ちが一番大事になった。すると自分の周りはストレスばかり。アレもコレも気にくわない。そんな気持ちを幼い頃にひどくぶつけられてしまった人は…。

自己防衛のため欲望を抑圧し、社会が常識とするところの「人間」の砦の中に閉じこもらざるを得なくなるのかもしれない。その砦の中は生気がなく、いつも不安で落ち着かない。こんなところで一生を過ごすのかと思うとうんざりする。生きるためには我慢するしかないけれど、でも、どうして自分が我慢しなければならないのか。

そんな気持ちでいたところ偶然、拳銃を手に入れてしまった。銃から感じる全能感。銃があれば砦の外に出れるかもしれない。自分に砦を築かせた他者を屈服させ、欲望を解放できるかもしれない。そう思うと気持ちが高揚してくるけれど、思うだけでは満足できない。もう銃本来の目的を達成するしかないのではないか。

人間は同類たる人間を殺すことに、精神的に強いブレーキがかかる。他者を傷つけることは自分も含めた全体を傷つけることであると本能的に理解しているからだ。にもかかわらず、殺人を犯してしまった者は、もはや今までの自分ではいられなくなる。しかし、今までの自分に価値を見出していないとしたら…。

銃を手にして葛藤するトオルがスリリングに描かれる。自己承認できず、自分という人間を壊すことでしか自分を解放できないのではないか、と思い込みジレンマに陥る。こんなトオルは果たしてとても例外的な人なのだろうか。

●物語(50%×4.0):2.00
・引き付けられた。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・村上虹郎さん、よかった。ラストの親子共演も象徴的なのかな。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・モノクロとか煙とか、その意味は良くわかる。
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