140字プロレス鶴見辰吾ジラ

凪待ちの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
4.2
【By the sea】

度を超してクズ。ギャンブル依存症を香取慎吾が熱演。いや、鬱演。一度きりのジョーカーを切ったかのような香取慎吾のアイドルらしからぬアイドル映画。くまさん体型に寄った香取慎吾がうつろな目とキレた刹那のお茶の間に響いていたヤンチャヴォイスを遺憾なく発揮している。香取慎吾の最大到達点は一般的には「慎吾ママ」だが、マヨネーズ中毒ではなく、酒とギャンブルに依存する堕ちた男として眼前に現れる。曇り空、夕暮れ時、強風、そして一瞬の天気雨も2011年3月11日の面影を直接的でなく間接的に背景化させ脳内に染みこませる。画面がグニャリと回る演出のダサさに呆れた冒頭から、「舐めてた演出が殺人マシーン」の如く中盤以降繰り返させる絶望感と悲愴感がただただ苦しい。

田舎町の殺人事件から「スリービルボード」の手触りと思わせつつ、バレバレなキャスティングから本作は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の精神性へともたれ掛かる。白石作品としての女性の絶妙な優美性は西田尚美以上に垣松祐里へと流れる。ヤクザ組織のリアルなノミ屋の構造も含め危うい世界がずっしりとのし掛かる。

救いなく主人公の周辺で発生する事象とギャンブル依存症の発症に、ノミ屋のカウンターの目が徐々に強張っていく過程が文句なしに怖い。ホラー映画の恐怖以上の能動的受難。

もはやここまで陰鬱なアイドル映画は今後現れるないのではと困惑する中で、家系ラーメンを食した黒田大輔が香取慎吾に追い回された挙げ句、土下座しながらゲロを吐くシーンは500,000,000点級。ここを賞賛せずにどうする?

最後の荒天模様の人生という船旅に希望の光と幾度となく差し伸べられる手の直接的演出は、上記であげたグニャリと歪む画面の反復法により切り取られた作品時間の先までも不安にさせている。もはや「凪待ち」こそ昨今人気の応援上映スタイルが適切なのではないのだろうか?古典演劇にて劇中の人物の罪を拍手で赦すあの手法がなければ本作は救われないだろうと半ば確信に近いエンディングであるからこそ。凪はいつくるのか?エンドロールの海底の残留思念が映す過去と不安定な未来を憂い手を差し伸べられるならそうしたいと願わせる体験だった。