八木

ドクター・スリープの八木のレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
4.7
 成功したイットThe Endというか、あるべき続編としてのニュー・フェイトというか、ブレードランナー2049というか。とにかく、「今シャイニングを語る必要」があったことにひっくり返りそうでした。面白かったです。このところ、続編を続けて映画館で見ることがあり、そのいくつかの出来栄えに期待値ガン下がりだったんですけど、見てよかったです。

 シャイニングは、当時として新機軸のびっくり映画や、不安感を切れさせない細やかな演出、ジャック・ニコルソンやジャック嫁の顔芸を眺めてただ楽しい体験になっていたと思うのですが、この映画には、シャイニングで触れていた要素を想起させつつより立体的になりながら、その先に興味を沸き立たせて、うっかり涙が出るような感動も用意されているという、力強い「続編たる必然」がありました。ですので、心から、映画を見る前の『シャイニング』の鑑賞をおすすめします。流石に見ていないと、意味不明なところが多いです。この映画内で、「かつてそのようなことがあった」という説明らしきことはほぼありません。雰囲気で察せなかったら面白さが半減すると思います。シャイニングとニコイチの映画です。

 原作小説である「シャイニング」は、ウィキペディアによりますと、ダニーの持つ能力によって問題解決がなされていくストーリーになっているそうですが、キューブリック版映画では父であるジャック・トランスの物語になっていて、ホテルの呪いとジャックの苦悩が噛み合って悲劇を生むまでが語られています。また、キュ版は、ジャックのラストを明らかに壮絶に見せ、ジャンル映画のような切れ味の終わり方であるため、妻と息子ダニーのその後については興味が向きづらい作りになっているように思えました。そして、タイトルにもなった、ダニーの持つ『シャイニング』と呼ばれる特殊能力についてはかなり薄味に触れられている印象です。
 この映画では「よく考えたら特殊能力があって危機回避できたってすごい要素だよね?」「その特殊能力を持つ奴って他にもいたよね?」と問いかけるところから映画が始まったので、僕は結構驚きました。このところの続編映画から『蘇ったゾンビジャックが斧でドッタンバッタン大騒ぎ、双子も怒って赤い洪水も流れて大パニック』という覚悟をしていたもんで。でも違ったんです。そして、お話が進む中で、特殊能力と悲劇の中で苦しんだ男が持ち得た優しさと、その報いについての映画だとわかりました。
 ダニーには捨て置けない苦しみがあって、それを解決するにはどうすればいいのか、といろいろ手を打った結果、酒や離職や引っ越しを繰り返しています。その先でいろいろと出会いがあり、まあいろいろあって(そればっか)『結局問題と向き合うことでしか、問題を解決できない』ということを学ぶんです。この逃げた先で、歯を食いしばりながら覚悟を決めるダニーを見せるまでの、映画の語り方がもう、本当に抜群で感動的で、何回か泣きそうになりました。この映画は、シャイニングで苦悩の中にいたジャックが、ああいった完結をド派手に見せたその横に、実の父の気が狂い、子供心に消化の難しい特殊能力によって生きる力を奪われてしまった母と息子、特にダニーに『救われる道を』と優しい視線を投げかけた映画ではなかったのかな、と思います。

 書けないけど、ラスト近くのバーのシーンとか。ただ生きてるんじゃなくて、何かをするために今この瞬間を生きてるんだと、あのグラスが教えてくれたような気がしました。生きる、死ぬ、その過程について考えること、誰でも無視できない問題じゃないですか。まさか、シャイニングという映画の続編から、こんなことを考えるとは思わなかった。『俺が救われるためにあいつを救う』っていう決断、人間臭いし全面的に共感する。

 ところで、この映画はスティーヴン・キングが続編として高い評価をしていると同時に、キュ版シャイニングは評価を低くしているとのことです。だとしたら、「ジャックのストーリー」っていうのはキューブリックの趣味が全開だったってことなんすね。それであのクォリティってのもすげえなあ。とにかく見て良かった映画となりました。
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