馮美梅

岬の兄妹の馮美梅のネタバレレビュー・内容・結末

岬の兄妹(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

関係ないけど、私はこの作品で描かれている「障碍者」という文字が嫌いです。不快です。こうして書いているだけでも虫唾が走ります。当事者としては「障害者」に違和感を感じないし、反対に今更「障碍者」とか「障がい者」とかって、あくまでもどこかの健常者の人たちが勝手に差別的だと言って使っているだけの事でそれこそ差別だと感じたりしております。(この2つの表記を見るだけで反吐が出そう)

そんなことはさて置き…
これは一体、夢見の悪いファンタジー?
足の悪い兄と知的障害を持つ自閉症の妹の壮絶なサバイバルの物語。
一見、家に鍵をかけたり、紐や鎖で妹が勝手に外に出ないようにしている様子は虐待とか感じるかもしれないが、実際問題、知的障害のある自閉症をサポートすることは大変です。物語の中でもあまりの空腹に気が付けばティッシュを食べてるシーンがありましたけど、まだティッシュで良かった。下手したらそれこそ目に付くもの手当たり次第口に入れたりする場合もあるし、なかなか生きずらい障害でもあります。

でも、とても純粋でもあります。
本音と建て前なんてないから、その人本来の感情を誰よりも素直に感じ取ることができます(ある意味一番苦しいことは自分の周囲の人の感情に常に支配されてしまいやすい、それで混乱させられる)

兄も足が悪い(これは先天的なのか後天的なのかは物語の中ではわかりません)仕事をリストラされ、妹は家から脱出。何とか見つかったものの、男とやったみたいでポケットにお金が…

腹が立つ兄ちゃんだけど、妹の真理子はそうでもない様子。
そうしているうちに、お金も底をつき、生活も困窮…
って、友人に警察官もいるんだから、まずは役所を紹介して、生活保護とか、妹も手帳を貰ってサポートしてもらうとかしないんだろうとそれにイライラ。もしそういう救済を受けていたら、こんなことにはならないだろうし、まあそうしたらこの物語も成立はしないんだろうけど…

生活に困窮した兄は、妹をだしに、売春をしようとする。
でもなかなか上手くはいかない。そこで考えたのが名刺を作ってポスティングする。最低の兄だ。でも本当に最低なのか?

男子高校生に(いじめっ子)お金を取られそうになるシーンは、マジでエグイ。2人がかりでウエストポーチを外そうとするのを何としてでも死守すべく考えたのは、人糞攻撃。人間、最後となるとなりふり構わず何をしだすかわからない。でもそのおかげで何とか財産を取られずに済んだけど…エグイよ。

真理子の天真爛漫さが時に男性たちに癒しを与えられていたかもしれない。
そして真理子もそんな男性を受け入れることに対して嫌だとは感じていない。妹の稼ぎで少し生活向上するけれど、そんな中、真理子はある男性客を特別に感じ始める。

中村という男性に対して真理子はとても執着していて、でも彼といると、他の人といる時とは違う表情になる。時間が来て兄が連れて帰ろうとしても珍しく嫌がって大変だったりする。普段は何を考えているのかわからない妹だけど、この時にそんな妹でも人を好きになる特別な気持ちがあるんだと気づかされる兄だった。

そんな鬼畜のような兄妹でも、一応兄は兄なりに妹の体の事も心配はする。働けば働くほど、金銭的には潤っても、妹の体にはいろいろ問題が発生するわけで、「しばらくお休みしよう」と真理子に言うけれど「なんで?」と当の本人は自分の体の痛みを辛いと感じない。

しかし、当然避妊も何もせずにいると、妊娠するわけで…
かと言って、堕胎するにもお金もない…

中村に真理子と結婚してくれないかと言いに行くけれど、あっさり断られる。彼もやはり低身長症というハンディをもって生きている。友人に預けていた真理子がいなくなったと連絡があって慌てる良夫だが、真理子は中村に会いにアパートの前にやってきた。

中村が真理子に対して本当はどう感じているのかはわからない。もし良夫がこのタイミングであんなこと言わなければ、もしかしたらいい結果になっていたかもしれないし、やはりあくまでも性処理としての関係だけだったのかもしれない。中村と引き離されて狂ったように泣き叫ぶ真理子を良夫自身もどうしていいのかわからない、このシーンは辛かったですね。

そして、おなかの子供を殺そうと良夫が行動しようとするけど、それはあまりにも恐ろしくて…でも寸前で留まってくれてよかった。

そんな、兄の気持ち(悲しい感情)を察する真理子。

最後、まるでデジャブのようなシーン再び…
夢なのか?現実なのか?

ハンディキャップがあるため喧嘩してリストラされたのに、喧嘩した相手が仕事を辞めたからまた戻ってきてと言われた良夫。そりゃ願ってもないことだけど、もっと早く何とかしてほしかったって「お前のせいでこんなことになったんだ!」と雇い主に怒りをぶつける良夫。わかるよ、でも、良夫が知らないだけできっと他に救済される方法はあったはず。

きっと、世の中、障害を持つ子供の親は沢山いると思う。でもその人たちが自分が死んだあと、この子がどのように生きて行くのかということを考えてあげないと、本当に悲惨な末路しかない。生きている時の自分の見栄や世間体で子供を後々不幸にしてしまわないように、常に世間そして福祉に頼れるものは頼ってほしいなと思いました。

しかし、風祭ゆきさんが産婦人科医で出演してるのにも驚いたけど、主役の2人松浦裕也さんと和田光沙さんの演技を超えた演技がすごかったですね。特に、真理子を演じた和田さんは本当にこの役を演じるにあたって色々お勉強されたのではないかと。知らない人が見たら本当に知的障害のある自閉症の人ではないかと思うくらいでした。きっと大変だったと思います。

でも、きっとこの世の中、この兄妹のような追い詰められている人たちもいるのかもしれない。それも今この時代の現実の問題として見えないだけであるのかもしれない。

しかし、不幸かそうじゃないかは周囲が決めることでもない。
これを見ていてふと思い出したのは「パンズ・ラビリンス」。
この作品はまさにダーク・ファンタジーなのだ。
馮美梅

馮美梅