140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ROMA/ローマの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.2
【寄せては帰す】

皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。2020年映画初めは、アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」でございます。

冒頭の床に撒かれた水とそこに反射する空のイメージ。掃除される水の寄せては帰すイメージはクライマックスおよびラストシーンの映像的伏線となり対になって呼応します。アルフォンソ・キュアロンが半自伝的映画として、当時自分を育ててくれた家政婦への贈り物として描いた本作のメキシコの日常の表と裏。何がアルフォンソ・キュアロンという人間を形成したのかを、クローズアップは殆ど使わず全編に渡って引きの絵と横スクロールの静かなカメラワークで映し出します。混在した言語含め、余白を読み続けなければならないために退屈になってしまうものの、それ自体が映画としての絵画性を色を拝したモノクロ性により鮮烈に描きます。映画という絵画、絵画の如き映画ゆえに横スクロールの映像に映り込むモノはアニメーションのように映像的な伏線、映像的な韻踏みをしていて、特にクライマックスのビーチから波の荒れた海に入っていく横移動のロングカットにて物凄い熱量を持って意味を顕在化させます。

撮影方法においてのディテールの拘りは、当時のメキシコの日常とその裏、人種や階層社会において育ったアルフォンソ・キュアロン本人のプライベートムービーでありながら、自己セラピーに近い寄り添いを見せることで描きます。横スクロールと引きの絵はまさにアルフォンソ・キュアロン自身や家政婦、そして我々をあの時代にタイムスリップ、もしくは幽体離脱させて時代の観測者として寄り添わせる気持ちに満ちています。

アルフォンソ・キュアロンの目から見た家庭やメキシコ。家政婦が見てきた家庭やメキシコ。描くことで何も知らなかったあのときを振り返り、そして懺悔や治癒のように体験させます。特に「宇宙からの脱出」という映画を家政婦と見に行くシーンで決定的にアルフォンソ・キュアロンの今をもって伏線と伏線回収が完了するシーンは震えます。家政婦の受難や時代のもたらした残虐性をそれでも捉え続ける横スクロールのカメラワーク。残虐性や受難に耐え忍び、そしてクライマックスのビーチから海への横スクロールの映像的なサスペンスや呼応のさせ方、序盤から隠されつつ描いてきた日常の裏側の死のイメージが帰着して本音が吐露され、何より美しく物理的な寄り添いまでに行き着いたシーンは狂おしいまでに感動的です。 

アルフォンソ・キュアロンのプライベートムービーとして、家政婦への贈り物としてのプライベートムービーとして、しかしこれが賞レースを席巻したという事実は、己の内にある本質の吐露とその開示と理解に際してのディテールへの拘りがなせる人の体温、熱量、想いのエネルギーのなせる技なのだと、冒頭と対になって描かれた青空に向かって想いを馳せる余韻が体温をもって優しくメッセージを贈っておりました。