140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ラストレターの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
4.5
【リメンバーミー・アス】

拝啓で始まって「お元気ですか?」が頭の中にこだまするそんな映画から25年。「エンドゲーム」や「アイリッシュマン」のように岩井俊二は新たなフェイズを飾る女優とともに最後の手紙を私たちに綴る。

岩井俊二の理想を描いた日常が映画という非日常を通して私たちに届く。ドキュメンタリー的な少女たちの地続きの会話は、“エモい“や“尊い“という感情を引き出してくる。

それは奇妙な文通。この時代に似つかわしくない文通はクリエイターによって背中を押され、そしてデータでなく文字という体温を帯びた表現であの頃の瑞々しさ、そして未来に咲く、としくは咲けなかった想いを呪いからの解放、救済として帰着させる。

過去と現在を映画的、そして地続きに松たか子、トヨエツ、ミポリン、福山雅治と映像でも個々の思い出からも引き出してくる。ここらへんは「アイリッシュマン」的というべきか(笑)。同窓会は映像内外でも機能している。

現代パートにも過去パートにも広瀬すずと森七菜という2人の次世代が背徳感すら感じさせる肌の瑞々しさと体温をもって自然体で語りかける。

一種、芸人のコントの出だしのような手紙と想いの行き違いが、ファニーそして懐かしさをもって手紙という過去の遺物を現代において体温として昇華させる。煌びやかな青空や自然の緑でなく、歓楽街の汚さや暗さを映した世界もまた初恋という呪いを忘れ難き思い出へと誘う。

岩井俊二のドキュメンタリー映画性はあざとく煌びやかな白の反射や虫の声で現実からの浮力を帯びてしまうが、各々が各々の道に進むとラストレターであるあのときの自分の将来を決定づけた言葉に優しく抱かれていく。未来に咲くか咲かないか、サムシング溢れる同窓会的なノスタルジーの余韻は、広瀬すずと森七菜の素肌にうかされて語彙を失わせる。

ご都合主義と言えばそれまでなのだが、かつての「ラブレター」の返事がきたような暖かく、奇妙な気持ちが私の心に残った。死別してもなお魂を生かそうとする妄念は呪いかそれとも熱情か。過去と今を精神上で行き来する私たちのエールのようにも「ラストレター」は聞こえた。