bluemomday0105

37セカンズのbluemomday0105のレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.6
【全ての「持たざる者」へ】
これは23歳の女性の冒険の話。
不自由な身体を抱えても、魂までは縛られない。それは障碍者だけでなく「男だから、女だから、もう歳だから」で鎖を巻きつける我々にも言えること。

そして障碍の有無を越えて、非正規低収入、容貌に恵まれない、若くない、などなどの「負け組女性」にとっても共感できる内容だし、「善良な持たざる者が素晴らしいメンターの助けを借りて、自分の居場所を勝ち取るために動く」という意味ではイーストウッドの「リチャード・ジュエル」と近い構造もあるかも。

冒頭の電車から駅、家の玄関、脱衣所、ユマの大きな幼児のような裸体、母親の腰痛ベルト、入浴まででこの親子のパーソナリティや設定、関係性を描いてるのすごい。アメリカで映画作りを学んだからか、邦画には珍しく語りすぎてない。「私はユマ、脳性麻痺で障害を負う23歳。母親と2人暮らし。漫画家の親友のゴーストライターやってる」で終わらせるのが邦画あるあるなのに。
あとカメラワークが時折ユマの視点になるのだけど、車椅子からの視点ってこういう低い所だよな…って。

障碍者だという負い目からか、母親の過干渉にも親友の搾取にも抗せず、求めすぎないように生きてきたユマが、初めて知らない雑誌に自作の漫画を持ち込みし、「妄想で描かれたセックスなんてつまらない」と言われたことから性について考えはじめ、そこから新たな出会いが生まれる。
メイクをしお洒落を覚えたユマは、逆に殻を1枚ずつ脱ぎ捨ててるように見えた。歓楽街に好奇心で目を輝かせる姿に、CHAIのやんちゃな歌がめちゃハマってた。

ここまでをNHKのドラマで観ていたわけですが、この辺りまではバリバラ的な「障碍者と性」みたいな内容かな…?(それでも十分素晴らしいんだけど)って感じなんですが、ここから全く違う方向に話が進む!
なかなか強引ではあるけれど、自分を周りを肯定して生きて行くために必要なイニシエーションだったから。

確かにん?と思う所もいくつかあったけど、ラストに行き着くためには必要だったんだろうな…と解釈したし、多分そこは大事じゃないのでしょう。
これが初長編作のHIKARI監督も、演技未経験でユマを演じた佳山明さんも素晴らしい。NHKドラマで見たときも、ドキュメンタリーかと思ったくらい彼女はユマの人生を生きていたよ。

パラサイトオスカー受賞で日本映画云々言われてるけど、こんな素晴らしい映画だってあるんだよ…泣きました。「シングストリート」を観たときのような高揚感があった。個人的にはシングストリートを観て就活頑張って、結局前職みたいなクソパワハラ脱法会社に入ってしまい、結果非正規で自信喪失してる現状で、あんなに好きなシングストリートにも複雑な感情を抱いてしまってるのだけど、トラウマを少し拭えた気がした。
しかしたった37秒でその先の数十年でできることや運命が変わってしまうのは、人間のプログラムポンコツすぎる…。
bluemomday0105

bluemomday0105