むぅ

峠 最後のサムライのむぅのレビュー・感想・評価

峠 最後のサムライ(2020年製作の映画)
3.6
ずっとお会いしとうございました。

佐々木蔵之介に、ではない。
河井継之助に、である。

この世に生を受け、戸籍も自認も"女"として生きてきた。
わりと平和な人生で一度だけ
「女に生まれて良かったぁぁ!」
と叫びたかった事がある。
小学4年生、名前の由来を聞いてこいという宿題で、生まれる前から決まっていたという私の名前に込められた両親の想いを聞いた。
そこで父が言った。
「男だったら継之助だった」
「(.......つ!つぎのすけぇぇ!)」
今ならその名は素敵だと思う。来世"男"だったら是非それで。ただ小4の私にはハードルが高かった。
「......誰?」
「歴史上の人物」

河井継之助
今作の主人公である。


慶応3年(1867年)大政奉還。
260年余りに及んだ徳川幕府は終焉を迎え、諸藩は東軍と西軍に二分していく。
慶応4年、鳥羽伏見の戦いを皮切りに戊辰戦争が勃発。越後の小藩、長岡藩の家老・河井継之助は東軍西軍いずれにも属さず武装中立を目指す。戦うことが当たり前となっていた武士の時代、民の暮らしを守るために戦争を避けようとするのだが...。


役所広司に演じてもらえるような人物だったのか。しかも佐々木蔵之介も出るのか。
今作を知ったのは確か『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を劇場で観た時だったと記憶している。そう思うとコロナ禍とは言え随分延びた。無事上映されて良かった。

名前の由来を聞いた時に住んでいた宮城県石巻市。小学校の3年間をそこで過ごしたのは[上司に歯向かって喧嘩した挙句あちらが折れて謝ったのに跳ね除けたから報復に飛ばされた説]が母と私の中で根強い父が好きそうな人物である、河井継之助。
親不孝者は司馬遼太郎の原作を読んでいないのだが、クセが強かったり扱いづらい面もありそうだが魅力的な人物だったのかな、などと思った。

「いつも太陽に向かって飛ぶカラスが好きだ」
という河井継之助の言葉が心に残った。
そして妻おすがを演じる松たか子とのシーンが良い。松たか子はコメディが抜群と思っているのだが、やはり着物での所作がとても美しい。
徳川慶喜を演じる東出昌大が結構慶喜っぽい!という何の根拠もない感想も持った。
私にはちょっと駆け足感があった今作。もっと深く知りたいなと思った。

映画を観ていると、その時代その時代を生きる人の"覚悟"を見せられてドキッとする事がある。
今作もそうだった。
日本史選択だったのに、へぇ!とかほぅ!とか新鮮に楽しみつつ、その"覚悟"の背景が読み取れない事が切なく悔しい。


久しぶりに聞く佐幕派という言葉でふと思い出す。
都道府県名と県庁所在地名が違う県は、佐幕派として明治政府に抵抗した藩もしくは曖昧な態度を示した藩で、罰として藩名をそのまま県名にすることが許されず強制的に改名させられたからじゃなかったけと。県庁所在地を覚える時に「同じとこと違うとこがあるのが納得いかない」と文句を垂れたら父が教えてくれたような気がする。調べてみたら[戊辰戦争報復措置説]というらしい。
あくまでも説だが。
そして私は佐幕派だったとこにしか住んだことがないのだな、などと思った。



「今日は何観るんスか?」
その質問に継之助だったかも案件含めて今作を観ると話した。
「佐々木蔵之介とお揃いっぽくていいじゃないスか」
「いや"介"と"助"で字が違うし、蔵之介は芸名だから。ご実家が造り酒屋だから蔵之介で、本名秀明だから」
「.....」
「ん、ごめん。ひかないで」
「あれっスよね、継之助だったら飲み会で"酒を注ぎのすけー"とか言ったり言われたりしてそうっスよね」
「ん、ごめん。言う側だよね」
「じゃ、つぎさんお疲れっス」
「お前」


人にお前などと言ってはいけない。
今作を観る限り、河井継之助は言わない。
むぅ

むぅ