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華氏 119のRのレビュー・感想・評価

華氏 119(2018年製作の映画)
4.5
でっち上げの戦争で無駄死にする人がどんどん増えていく狂いきった状況を何とか変えたい一心で、2004年にマイケルムーアが監督した華氏911は、ブッシュ政権を手厳しく批判し、難しい内容ながら心を動かさずにはいられないエモーショナルな映画になっていた。が、結局ブッシュはその後の大統領選で再選してしまったんですよね。本作は去年の中間選挙の前に、トランプの躍進に歯止めをかけようと、トランプを批判しまくる内容になってるのだろう…と思いきや! まぁもうそこが狂ってるのは前提ですわ。基本ゴリゴリのビジネスマンが政治に関わると、いかに政治全体がカネと利権に傾き、それがどれくらいクレイジーで、どれくらい恐ろしい問題を引き起こし得るかを暴いていく前半は、他のドキュメンタリーでも見たことのあるような内容で、特に目新しさはない。とんでもなくヒドいしこわいけどね。だが、本作はさらに、なぜほぼ確実に当選すると予測されていた民主党が敗北してしまったのか、を民主党側に存在してる根強い問題を掘り起こすことで明らかにしていく。これがめちゃくちゃ興味深い。まず、民主社会主義者であるバーニーサンダースが民主側の予備選挙(それぞれの党から誰を大統領候補をするかを決定する)において、一般代議員の得票率でクリントンをゆうに上回っていたにも関わらず、クリントンが勝ってしまったという非民主的システムが存在していたことを明らかにし、サンダースを応援していた数多くの民主党派の人たちがその不条理さに萎えてしまい、選挙に行かなかったという事実を暴いていく。このへんはほんとにオモシロイ。それぞれの党の得票率と投票に行かなかった人の比率を見ると、トランプが一番少数やったのに、選挙人制度があるため、結局大統領になってしまった。というおかしな状況よ。もはや昔々のシステムじゃうまく回らなくなってるのに、新時代に合わせた変更がなされていない。本作の冒頭の開票時のシーンでは、絶対勝つと思われてたクリントン側の面々がどんどん蒼ざめていって、トランプはまさか勝つと思ってなかったから、めちゃくちゃ勝利のスピーチ会場が地味っていう笑 さらに、フリントという町の水道が鉛汚染で人死が出まくってる事件を前半追ってたのが、本筋と関係なくね?って思ってたんやけど、民主党の救世のヒーローだと思ってたあの人まで……っていう絶望感をのちに描いていく。マジでアメリカ…闇が深すぎる。高度な民主主義からナチスが生まれてしまったドイツと現代アメリカを比較するシーンは怖すぎてゾッとする。おいおい、日本を含むいろんな国や地域で同じことが起こってないか?って思わされる。たしかに、コジツケ臭いコラージュもあるにはあるけど、でも確実に真実の一面ではあるから否定しようがない。そんなこんなを描くマイケルムーアが期待を寄せてる人たちが、女と青年たちってのが、ほんま未来をクリアに見通しててすごいなーと思った。前作の世界新略でも女たちに対する信頼の深さがすごいな、とおもったけど、本作でも全く同じことを主張してて、やっぱ女性の時代が来なければ、ってか女性の時代にしなければ、どうにもならんのやろな、としみじみ感じた。けど日本では、女性の時代になる気配や女性の時代にしていこうという気概が、まったく感じられないのがホントに残念。男の側にも女の側にもそこらへんの感覚を根底から変えてくための信念の深さとか変革へのエネルギーがさっぱりない。自分さえ良ければいい、面倒は嫌、っていう思想が根強すぎる。そりゃ変わらんわ。ただ本作を見ると、どんだけ腰の重い日本人でもひとつだけ確実に感じるであろうことがある。それは投票の重要性。ボクは若い人たちとコンスタントに交流のある人間なので、是非ともこの映画を見ることを勧めていきたいな、と思った。最後に、ボクの愛するMadonnaが数日前にYouTubeに発表した新曲 I Rise の冒頭、何か聴いたことあるなー、と思ってたら、たまたま本作で出てきてビックリした! そーや、エマゴンザレスさんや。めっちゃいい曲なので是非聴いてみてくだされ。
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