140字プロレス鶴見辰吾ジラ

アド・アストラの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
3.5
【隣人を愛せ】

43億㎞彼方の父を探すために息子は大いなる旅へ。壮大な宇宙と複雑怪奇内面。宇宙という静謐で畏怖な死、または生を凌駕した空間が心象風景として描かれる。取り戻すことを胸に秘めるブラッド・ピット。ここではない何処かの願望に縋るトミー・リー・ジョーンズ。リスキーすぎる任務と役者として世界観を壊すぬよう繊細な表情を作る2人。

アポロ計画をリスペクトとした未来でなく映る未来とテレンス・マリックの如き深みへ誘う空間美、心象風景。それ以上に趣向を魅せる「2001宇宙の旅」。キューブリックが宇宙の果てに神を探したように、父親の「神に近づいた気がする。」という記録映像の言葉が呼応する。父を追う息子に課せられる受難と、纏わり付く謎。もっとサスペンスに、もっとサイエンスフィクションに出て来たと思わせる世界観はミニマルにセカイへと着陸する。未来へと飛び立っても逃れられない資源への渇望と争い、そしてビジネス。怒りの感情で生きることをアップデートした猿。←ここがピカイチ怖かった。

科学技術の発展で「神は死んだ」のか?世界の科学が成熟すればするほどセカイの神は遠く遠く目指さないと届かない。いずれ虚無を見とめることになる。自らのエゴは偉大へと飛翔させながらも足下は暗く冷たくする。クリストファー・ノーランの「インターステラー」を期待して肩透かしを喰らったなら、次は父を追うという観点でロバート・ゼメキスの「コンタクト」だ。これは「コンタクト」のように希望は抱かせない。宇宙の彼方にも神はいないと突きつける。しかし神の教えとして「隣人を愛せ」に帰着させるラストは興味深い。そこに対応させるサイエンスフィクションとスリルとロマンは重力圏離脱の際に切り離してしまった本作を傑作と呼べぬ気持ちが上記のスコアだ。トチ狂った徘徊老人を探しにいく息子の壮大な旅は、世界の危機や科学考証という重力圏を逸脱し、深く眠りという暗い穴に誘ってしまうことしかり。人の成熟を問うような鏡の反射の映画だったと言わんばかりに、光と闇と反射で見え隠れする表情の印象的な映画だった。