ヨーク

運び屋のヨークのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.3
相変わらずご老体とは思えない姿勢の良さが素晴らしい。もうその時点で格好いい。
個人的にイーストウッド監督が大好きなので贔屓目に観てしまっているかもしれないが大変いい映画だった。もうね、自分が何を運んでいるのかを知ってからの展開が凄くいいよね。葛藤するのかなとか思ったら全くそんなことはなく相変わらず歌うたいながら、途中で女買いながら麻薬運んでんの。このジジイとんでもねぇな!てなるよ。ほんと嫁さんも娘さんもお孫さんもこのジジイとやっていくのは大変だったろうなって。その部分はネットで感想とか見ると良心の呵責もなく麻薬の運び屋をやるのはどうかと思うみたいな感想を見かけて、まぁ確かに仰る通りではあるんだけどイーストウッドというのはそういう人なので仕方がないとしか言いようがない。
イーストウッドは昔から一貫して錦の御旗として正義を掲げたような作品は作ってはいない。もちろんヒロイックな作品は多々あるが彼が体現するヒーローは法や道徳のために悪を討つヒーローではなく、あくまでも自分自身が信じる信念のために戦うのだ。その結果アウトローになってしまっても構わない。
今作もその部分は全くぶれていなかった。流石にお爺ちゃんなのでちょっと説教臭くなったよなとは思うが法を逸脱することに対する躊躇とかは特にない。イーストウッド作品において必ずしも主人公が正義ではなくても嫌な気分にはならないのは上述した信念もあるが、ある種の切実さがあるからだとも思う。『運び屋』という作品はシリアスな予告編で身構えていたが割と軽いノリで笑える描写が多々ある作品でもあった。しかしその軽い洒脱さの中にどうしても取り戻すことができない家族との時間が影を落とす。
イーストウッド演じるアールは皮肉めいた軽口を叩きながら麻薬を運んで若い女を買ったりするんだけど絶対に取り戻せないことがあることに絶望してもいる。だからメキシコマフィアに銃口を突き付けられても「全然怖くないぞ、撃ってみろよ」と言うがそれは虚勢でも何でもなく後悔しか残らなかった人生を終わらせてくれよという切実な祈りのようにも見えるのだ。それは法やモラルといった理知的で社会的な規範では測れない、おぞましくも血の通った生物の内臓のような暖かな実感だ。俺はそういう生身の感覚がある切実さがイーストウッド作品の魅力だと思う。
だがそこを含めてイーストウッドという人は客が自分に何を求めているのかを深く理解して自分自身のキャラクターを演じているよなとも思う。ある種のアイドル映画だとも言えるだろう。いい意味でも悪い意味でもイーストウッド作品は破綻しないのだ。
本当に稀有なプロの映画人だと思います。
これが遺作になるだろうなと思い始めてから5~6本くらいは観てる気がするがもっと撮ってほしい。
あと、あのエンディングの歌詞はずるいですね。あんなの映画の出来に関係なく泣いてしまう。いや映画自体も良かったんだけど。
大変いい映画でした。面白かった。
ヨーク

ヨーク