るるびっち

運び屋のるるびっちのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.5
一日しか咲かないというデイリリーの花に一生を捧げた老人。
彼にとっては、一瞬しか姿を見せない幻の美女なのだろう。
「家族だって同じよ」
と、別れた妻に言われるまで、家族なんて年中咲いてる野の花くらいにしか思っていなかったのか。丹精込めて時間を掛けなければ花は開かない。家族だって・・・

最近は実話ばかり映画化するイーストウッド。
作り話には、人生の真実を見いだせないのか。
今回も実際に起きた事件をモデルに作っている。
しかし実情がよく解らなかったので、家族の部分は自分を当てはめているらしい。
イーストウッド自身、離婚や女性トラブルが多く、映画創りに熱中して家族を顧みなかった。つまり自分の話なのだ。
前作『15時17分、パリ行き』で、事件の当事者に演じさせたイーストウッド。
本作でも父と口をきかない娘は、イーストウッドの本当の娘だ。
まさにリアル。近松門左衛門の言う、『虚実の皮膜(ひにく)を行く』という奴か。
近松の心中物も、実際にあった事件を元に創っている。
時代が違っても創作の秘訣は同じ。

確かにデイリリーの花は一日で枯れるのだが、実は農園では一度には咲かない。
その為、毎日違う花が開花するのを長~く楽しめるらしい。
日替わりで美女を楽しむみたいに。
それを知って観ると、元妻が激怒するのも納得のチャラ爺なのだ。
リップクリーム塗ってる場合じゃないぞ! 乾いてんのはお前の唇じゃなく、家族の心だよ、わかってんのか、やい爺ィィィィィ!!!

家族に無視され、仲良くなったのは麻薬カルテルのファミリーという洒落が笑える。
麻薬捜査官や見張りの男たちには、息子に言うように偉そうに人生訓を垂れる。「俺の様になるな、仕事より家族が大事だ」「仕事を変えろ、一番好きなことをやれ」
だけど妻や娘には叱られてばかり。孫娘(実は女系家族)にも「味方して上げたのに、ママの言う通りだった!!」とこき下ろされて反論できない情けなさ。泣ける、いや笑える、いや泣ける?

おふざけ爺は、人生も運び屋の仕事も寄り道ばかり。カルテルもイライラさせるほどマイペース。気にもしない。
それが却って捜査側の調査をかく乱させる。彼のやり方が実は一番正解だったのだ。
なのに犯罪の世界も勤勉な厳密さを問われるビジネス化が進み、悠長にはやらせて貰えない。世知辛いのはギャング社会も同じという皮肉。
本作は風刺漫画のようにスパイスが効いている。

前半のおふざけムードとは一変、カルテルの世代交代で本当にヤバくなるのだが、彼は命を捨てて、最後には瀕死の妻の元へ帰る。
長い寄り道人生の中で、ようやく元妻の元へ(ややこしい)。
一日だけ咲くデイリリーのように、ほんのひととき寄り添う。
人生は最後の一日になっても花開くことができるのだ。

この映画はイーストウッド自身の家族への贖罪なのか?
でもね、そう言いながら88歳でまだ引退せずに映画創ってるんでしょう? 未だに仕事に夢中だよね。
映画の中で「家族が一番、仕事はその次」そう言ってたけど、仕事にかかりっきりだよね?
イーストウッドの家族は、この映画どう観てるのかな?
「おふざけ爺、嘘つき爺!! 味方してあげたのにママの言う通りだった!!」って現実にも言われなきゃいいけど(笑)
家族には悪いけど、まだまだおふざけ爺さんの花が観たいです~💛
るるびっち

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