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ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
古典的推理モノ映画等に触れる機会が圧倒的に多いため、現代推理劇映画を見るのは相当久しぶりな私。
"いかにもミステリーの舞台のような場所"で起きた、犯罪小説の巨匠死亡事件を、"いかにも頭の切れそうな名探偵"が、"いかにも殺人を犯す動機を抱える容疑者たち"からの聴取と地道な操作によって解き明かす、超古典的ミステリー……かと思いきや、それら前提はそのままに、開始早々に事件の真相が判明してしまう展開に!

犯人が最初からわかっているコロンボ系や、『アクロイド殺し』のような犯人独白系ではありませんが、事件の真相を知る人間が、探偵に信頼されており、彼の目を欺くためにアレコレ画策する様をコミカルに見せるというのは、何分これまで見たことがありませんでしたので、斬新さを楽しむことができました。

ただ、本作は、探偵の動向に注目せず、事件の真相も早期に発覚しているため、「いかにして探偵が真相を究明していくか」の過程は判然としません。
主人公は探偵ではなく別の人物なため、必然探偵が中心に画面に映る時間は減ります。推理の材料を得る場面は見えても、それを論理的に組み立てている様子は少な目に。

要するに、本作の名探偵ブノワ・ブラン(演:ダニエル・クレイグ)が、文句なしに有能な名探偵感を出していない&出せない&出させない、ということです。(主人公が探偵の目をだまくらかそうと頑張っているわけですから、探偵は主人公が行動した結果に慄き慌て無念がるばかり。当然そんなシーンが多くなると、あまり有能感は出ませんよね。)

基本的にミステリーにおける探偵役は、優秀・偏屈・昼行灯等様々なバリエーションがありますが、キレものです。
本作のブノワ・ブランもキレものに違いありませんが、物語が進むにつれて論理的に道筋だった行動が取れない……行き当たりばったりになります。
肝心のフィナーレ、推理を披露する場面においても、「まだ謎なところがありますが……」の展開において、強い説得力はありません。
明確な証拠の積み重ねに基づくとはいえ、推測話の域を出ないもの。そこに盤石な説得力を持たせるためには、やはり探偵の持つ安心感は重要なところ。
その点、ブノワ・ブランは描写が少し足りなかったと感じました。
例えば本作が、ブノワ・ブランシリーズの第何作とかなら、そう感じる事はなかったと思いますが、もしそうしてしまったら、逆に斬新さは失われていたかもしれません。なんとも難しいところですね。


なお本作は、移民に対する感情・主義主張の問題が折り込まれていたりしますが、内容的には非常にオーソドックスで古典的な"金のトラブル(相続)"にまつわる家族のもめごとと、それに巻き込まれた主人公という内容ですので、正直先読みできるところもあります。
逆に、鉄板の中身で安心して楽しめる作品、とも言えます。
グロテスクな要素も殆どなく、死体も一瞬しか映らないため、お子さんとご一緒に楽しめる親切設計。
豪華キャスト揃い踏みの華やかさも楽しい娯楽作品として、万人にオススメできる良作だったのではないでしょうか。
ミステリーフリークな方には物足りないかもしれませんが、そこはそういうものだということで一つ、勘弁していただきたく。
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