小松屋たから

僕たちは希望という名の列車に乗ったの小松屋たからのレビュー・感想・評価

4.0
誤解を恐れず正直に言えば、思ってたより東ドイツが「自由」に見えた。これまでのイメージは「ブリッジ・オブ・スパイ」で描かれたような、昼でも暗く、人々は無表情、いつも緊張感に満ちて静まり返った街並み。でもこの映画では、若者たちの教室や屋外での行動も会話も恋愛も服装も食事も、確かに息苦しく、質素ではあるが、「普通」。大人たちにも堂々と反抗的な態度をとっている。

ベルリンの壁ができる5年前の話、ということなので、その頃は、まだ、経済的にも余裕があり、ある程度の寛容さもあったということのなだろうか。もちろん、自分が単に不勉強なだけかもしれないが。

この若者たちのような行動が後を絶たなかったため、東ドイツが壁を造るほど極度に閉鎖的になっていったのかもしれない、残された家族のその後はどうなった、西側に行った人すべてが幸せになったとは限らない…等々、想像すると、「自由」とは必ず何らかの代償を伴うものだということを改めて考えさせられる。

若者たちの決意表明の姿は尊く、やはり泣けたが、席から立ち上がらない者がいたことも頷ける。自分ならどうしただろう。目を伏せてしまったかもしれないし、勢いに任せて立ち上がったかもしれない。やっぱり立ったかな…でもいずれにしろ「多数決」に流されていたらあとで絶対後悔し続けただろうから、そのあとの「自分で決めろ」というテオの言葉は必要だった。

今の時代からみればくだらないことにムキになる体制側は醜いが、それは、恐怖と暴力の時代を生き延びてきたがゆえの防御反応でもあり、形こそ異なれ、現代でもどこの国の体制にも備わる「安定護持志向」という性質の発露だと考えれば、単なる悪役として片付けてしまうのも間違っているかも。

結局、一番心が動かされたのは親子の絆。主義主張がどうであれ、それだけは、人類普遍なのかもしれない。