タケオ

ウエスト・サイド・ストーリーのタケオのレビュー・感想・評価

4.5
-「映画的恍惚」が限界まで極まる至高のミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』(21年)-

 「一体どうやったらこんな画を撮影することができるのか?」と思わず息を呑むような、そんな驚異の映像の奔流にはただただ圧倒された。スティーブン・スピルバーグの隅々まで行き届いた演出、ヤヌス・カミンスキーのシャープな撮影、ポール・テイズウェルによる華やかな衣装デザイン、キャストたちのパワフルなパフォーマンスなどなど、どこをとっても完璧だとしかいいようがない。本作『ウエスト・サイド・ストーリー』(21年)には、「映画的恍惚」が極限まで極まってしまう凄みがある。まるでスクリーンそのものが眩い輝きを放っているかのような、そんな錯覚すらもたらしてくれるのだ。
 ストーリー自体はオリジナル版『ウエスト・サイド物語』(61年)に忠実だが、だからといって本作がなんの捻りもない単なるリメイクなのかというとそれは違う。約60年前の映画を現代に甦らすにあたりスティーブン・スピルバーグは、オリジナル版が大きく扱っていた「移民問題」に加え「ジェントリフィケーション」や「LGBTQIA」など多彩なテーマを盛り込むことで、ミュージカル映画の古典を堂々たる「現代の作品」として見事に再構築してみせた。しかし、複雑なテーマをいくつも盛り込んでいるにも関わらず、オリジナル版に満ち溢れていた映画的高揚感が全く損なわれていない・・・どころか、遥かにパワーアップしているというのだから驚きだ。オリジナル版ではダンスとして振り付けられていた'暴力シーン'が、本作では痛みを伴う'暴力'として生々しく描写されているのも印象的。それによって作中で描かれている問題の数々が、単なる「フィクション」ではなく日常の地続きにある「リアル」なものとしてヒリヒリと迫ってくる。また、曲の順序をいくつか入れ換えることで(ブロードウェイ版には忠実)、物語の「悲劇」としての側面がより強く打ち出されるという巧みな構成にも舌を巻くばかりだ。「約60年の時を経てもなお、世界では憎しみと暴力の連鎖が続いている」という残酷ながらも強烈なメッセージに胸を締め付けられると同時に、「順序を入れ換えるだけでここまで印象が変わるものなのか!」と思わず瞠目せられた。まだ「世界」は何ひとつとして変わることができていない。そんな愍然たる「現代」の姿に自覚的であることこそが、本作に「同時代性」をもたらしているのである。
 トランプ政権以降、人種間の分断がかつてないほど深刻となった今という時代に改めて『ウエスト・サイド・ストーリー』を制作した意義は極めて大きい。「愛」ある限り、きっとどこかに「希望」はある。ただの綺麗事と言ってしまえばそれまでかもしれない。しかし、それでもなお「愛」という綺麗事を貫こうとする意志こそが大切なのだと『ウエスト・サイド・ストーリー』は主張する。いつかはきっとトニーとマリアが結ばれる日がくる・・・かもしれないからだ。
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