るるびっち

僕たちのラストステージのるるびっちのレビュー・感想・評価

僕たちのラストステージ(2018年製作の映画)
3.6
日本では極楽コンビの愛称で知られたローレル&ハーディ。
芸風は『トムとジェリー』の元祖系で、「仲良く喧嘩しな」て感じ。
いつも些細なことから喧嘩して、車から家からぶっ壊しあいになる。
ドリフの『8時だヨ!全員集合』で最後に家屋全壊したように、昔の方がギャグは破壊的だ。今ではパイ投げすらコンプライアンスで規制が掛かりがち。
スラップスティック(ドタバタ)に対して、より派手に激しいものをノックアバウト・コメディという言い方もあるようだが、厳密な定義は知らない。

本作では晩年の姿を描いているので、若い頃の暴れ回って物を壊しまくる痛快さやハチャメチャさが省略されていて、このコンビの何が面白くて人気だったのかが伝わらない。(当時の作品では劇中の病院のギャグは、巨漢のハーディが天井から逆さまに釣り下げられ、二人に絡んだ医者が窓からぶら下がる程過激)
そんなこと知ってる前提で描かれているようだが、我が国では数十年前の大衆文化はとっくに忘れ去られている。

パーティで積年の恨みつらみもあり、妻同士のいがみ合いもあり、本当に喧嘩するコンビ。しかし周囲の客は、いつもの喧嘩芸を余興で演じていると勘違いして笑う。コンビの危機を招くほどの本気喧嘩なのに・・・二人の芸風を逆手に取った演出が秀逸。

個人的には大物プロデューサーとしてハル・ローチが出てるのがツボ。
マック・セネットと喜劇映画界を牛耳っていた王様だ。
マック・セネットの「キーストン・コップスシリーズ」「チャップリン」に対して、独自のスタジオを起こして「ハロルド・ロイド」「ちびっ子ギャング」「極楽コンビ」を売り出した傑物だ。この王様に盾突くローレルって凄い勇敢。驚いた。
セネットがギャグの為のギャグでスラップスティックを連発したのに対し、ハル・ローチが開発したのはシチュエーション・ギャグだと言われている。詳細は喜劇映画研究会の書籍に譲る。

とは言え、そんなこと全然知らなくても、かつて人気のあった老芸人コンビが愛情と裏腹の恨みつらみを超えて互いを認めあい、芸人としても男としても人生のラストステージを命がけで演じる姿を観るのは、感極まらない訳がない。
老人BLというジャンルがあれば、腐女子感激のシーンもある。老人BL・・・腐り過ぎだが・・・発酵が増すほどその手の食品は美味しいから・・・お一ついかがどす?

二人の踊りをそのまま映すより踊る影を映す。実体のない人気商売というのを影になぞらえている。(映画はそもそも、光をフィルムに通した影)
また、時代の趨勢は残酷だ。
帰りのエレベーターで、ご年配の方が「極楽コンビは子供の頃よくやってたけど、戦後凸凹コンビ(アボット&コステロ)に人気とられちゃったな」と仰っていた。
動きの笑いから、しゃべくりの笑いに時代が移っていたのだ。(ちなみにアボットとコステロは、『メッセージ』の宇宙人のあだ名にも使われている)

しかし今見ると不思議なもので、時代を遡るほど動きの芸は素晴らしくなる。凸凹より極楽、極楽よりチャップリンやキートンの方が人間技とは思えぬ妙技を披露して見応えがある。ジャッキー・チェンが真似るほど、バスター・キートンの軽業はアクロバティックで完璧。チャップリンやキートンの方が、長く記憶に残る所以だろう。

映画内に現れた、
鞄が階段を落ちるギャグの元ネタ→『極楽ピアノ騒動(The Music Box)』
病院でのドタバタ→『County Hospital』
劇中で踊るダンス→『AT THE BALL ,THAT’S ALL』
ロビン・フッドの妄想シーン→おそらく『快賊ディアボロ(Fra Diavolo)』
はYouTubeでローレル&ハーディで検索したら見られます。
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