とりん

ザ・ライダーのとりんのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

2021年37本目

先日観た「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督の前作であり、長編映画デビュー作品。
「ノマドランド」でも感じたが、とにかく映像が美しい。
本作はロデオに全てをかけてきた男の話で、もちろん馬も主役であるのだけれど、馬で草原をかけるシーンの美しさは今まで観てきた映画の中でも随一と言えるほど美しかった。思わずため息が出るほど。
そこに重なる音楽はかなり静かではあるものの、この情景を映し出すのにはすごく良い塩梅だった。
全体を通してドキュメンタリータッチに近いくらいリアルに描いていて、すごく淡々と描かれている。そのため序盤は少し退屈かなと思えたところもあったけど、徐々にブレイディの心情が痛いほど伝わってきて、彼に浸透していく。
同じく大怪我を負い脳にも体全体にもマヒが残るほどの重傷でありながらも夢を諦めずにリハビリをするかつての英雄レインと、頭の大怪我だけでありながらも続けると発作がひどくなり死が迫ると言われ夢を諦めざるを得ないブレイディとの対比が特に胸に締め付けられた。
レインはブレイディの兄貴分であり、彼の姿を観てロデオに憧れたのもあるだろうし、実際レインはとてつもない乗り手でもあったよう。そんな彼を見舞いながらリハビリの手伝いもしているところをみるとなおさらに。しかもそれに行き出したのも自分が怪我してからという、これもまた自分がこれからどう生きていくかの道を探すために彼に会いに行くようになったとも言える。結果的に自分をさらに苦しめたかもしれないが、だからこそ前に進めたのかもしれない。
愛馬を2度も失う経験だったり、その一回は足を怪我し安楽死させている。使命を失ったものは死を与えたほうが楽という言葉が自分にも降りかかり、さらに葛藤を募らせる。それでも人間は生きていかなければならない、少し人間のエゴを感じる部分ではあるけれど、人間だからこそのこの辛さや悩みがあるのだろう。
この葛藤の末、最後に家族の反対を押し切り、ロデオに向かい、着々と準備を整える中、観客の中に家族の姿を観たときに、もう目頭が熱くなった。先のレインとの対比や愛馬との別れ、葛藤、たくさん泣くポイントはあったけど、ここが一番きた。
家庭的に苦労をしているのもギャンブル漬けの父のせいでもあるけれど、その血を受け継いでいるし、こういうところで父親らしさや温かさが表れるとなおさらくる。
しかも最後の最後で右手に発作が出たのだろう、結局舞台に立てないというのがまた辛いところ。
格好が同じことからそのままレインに会いに行ったのだろう、夢を諦めるよと話しに行ったのかもしれない、でも彼は「夢を諦めるな」という。馬で草原を駆けるあの気持ちを忘れられないと想いを馳せながら。
この映画の魅せ場はやはり映像美もあるが、ブレイディの葛藤が大きい。
家族には反対されているものの、ともにロデオに全てをかけてきた仲間たちはいつ復帰するんだとハッパをかけてくるし、彼を応援してくれるファンだっている、そんな気持ちの狭間に立たされたりもするし、調教師として道を行こうとすればそれもダメだと発作が出てくるし、どれだけ彼を苦しめるんだと思わせられる。
こんな彼の葛藤見事に演じきったのは、ブレイディ役本人である。ちなみに脇を固める人たちもみんな本人である。
だからリアリティがより強くなるのかもしれないが、演技自然体すぎてうますぎるだろ。それも監督の手腕か。この辺りは「ノマドランド」と手法は近いかも。
とりん

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