いの

ザ・ライダーのいののレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
5.0


この世界の片隅で


映画を観ていても、何年代の映画なのかもわからない。時代から、置き去りにされているかのように見える人々。画面に映る機器などから、(かろうじて)これが現在の映画なのだろうと推測する。


レイジング・ブルに振り落とされて、瀕死の怪我を追ったロデオライダー。頭部の傷が、生々しい。一家は貧しく、というより、そこに暮らす人々は皆、貧しく、貧しさが染みついているかのように見える。後遺症でうまく動かない右手、度々の嘔吐。死への恐怖。諦め。おそらくは障がいのある妹。ロデオでめちゃイカしていた兄貴分は、既に自分よりずっと重度の障がいを抱えていて、こんな言い方をしてよいのかわからないけど、どうにか生きながらえている。


馬を調教していく場面も、とてつもなくリアル。青年が、類い稀なる調教師でもあることが、画を通して、観ている私にも、皮膚感覚としてビンビンに伝わってくる。誰の言うこともきかなかった荒ぶる馬が、青年を信頼していく様子が、切ないくらいに切ない。嗚呼、私も馬になりたい。そんな気持ちになってくる。馬が青年に心を開き、青年も馬によって、心の奥底を愛撫されているのだと思う。何処にも行き場のない、この世界で。閉塞されたこの場所で。もういつ死んでもおかしくないような状況のなかで。(右手に持ったコルトを眺める。その銃を、こめかみに持っていくことだってできるのだ。)


慕っていた兄貴分とのやりとりも切ない。彼らは、馬に乗って疾走していた時の感覚が、体に染みついている。体は動かなくても、目を閉じれば、いつでもそこに戻る。風を感じて、どこまでも遠く、走ることができる。だから。生きてゆける。



🐴🐴🐴
〈追記〉2020.1.14
少し、調べてみました!
・サウスダコタ州バッドランズで実際に暮らしている住人たち(少数民族)が、演じているとのこと。本人が本人役を演じている。
・今作が大絶賛されたことで、マーベルの『エターナルズ』の監督に大抜擢されたとのこと。女性の監督だそうです。


本当に素晴らしい作品です。観るなら、今だぜ!
いの

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