櫻

ノベンバーの櫻のレビュー・感想・評価

ノベンバー(2017年製作の映画)
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これまでなにかを願い叶ったことと叶わなかったことを比べると、叶わなかったことの方があまりにも多い。この世に生を受けたものたちはすべて死にゆく運命なのだから、死を前にすればその願いなど、ちいさくて無いに等しいのだと言われたとしても、それを目の前にしている現在の前では、きっとただの戯言にしか聞こえない。だから、わたしたちは現在の苦しみや落胆や哀しみがおさまるまで、じっとその渦中に留まっているしかない。

ふかい冬の幽玄なうつくしさの中、釜や斧からできた身体に乗り移った暴れ者で従順な精霊と、生きのびるために互いのものを盗み合う人間たちとが同居する不思議なこの作品にも、そんな叶わないことの前で落胆し、それでも報いを得ようとする人々の姿があった。とりわけヒロインのリーナとちょうど現在のわたしの心情が似ていたので、彼女が叶わない想いをどうにか叶えようとするのを見るたびに、喉がかあっと熱くなった。自分本位な妄想とは裏腹に、ただその人が悲しむことなく幸せに生きていてほしいと思うことは、おそらく矛盾しない素直な願いだった。だからこそ、その間でゆらいで苦しくなる。
(つくづく映画というのは、観ている人を映す鏡のようだと思う。それはとても恐ろしいことだし、容赦なくやさしいことだ。わたしは映画に救われてきたし、映されてきたし、包まれてきたのだった)

たぶんその渦中にいない外側から見れば、エゴイズムにまみれた行動に思えるだろうしまったくその通りなのだけれど、行動すればするほどに複雑に絡まっていく想いは、わたしにはとてもきれいな模様に見えた。それはあの夜、彼女と彼を隔てたあのベールのようだった。大切な自分自身を代償としていたのだとしても、偽りのもとに叶ったまがいものだとしても、暗闇が彼らを守り、やがて朝が彼らを見つけるまでは、まるでほんとうのことのようにうつくしかった。叶わないことは叶わないまま、その身を代償が砕き、終わりを迎えたとしても。
櫻