140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ジョジョ・ラビットの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.2
【靴紐】
1200レビュー達成!

靴紐を結ばれる子どもとしての存在から靴紐を結んであげる大人へと、第2次大戦下のドイツにてユーモアと底冷えする戦争の陰を少年の視点から描いた物語。

10歳の少年というまだ純なる存在は外界に簡単に染め上げられてしまう。ハイルヒトラー!を連呼する冒頭のシーンから、これはキマったな!と思わせるアプローチ。そして信じて止まないナチスイズムをあろうことか自宅の屋根裏に母親がユダヤ人を匿っているという物理的葛藤にて描き出す。

イマジナリーフレンドのアドルフとユーモアたっぷりなコメディかと思いきや、急に底冷えするような戦争の爪痕が柔肌に突き立てられる。

スカーレット・ヨハンソン演じる母親の自由かつ強気な愛情の母体から見れば、ヒトラー信望をする息子は反抗期の真っ盛り。家族のある背景を巡って屋根裏に隠した葛藤が主人公ジョジョのナチスイズムの洗脳を「愛の力」という陳腐に聞こえるが絶対的なモノで洗い流していく。心に掛けられたカギを開けるキーとなるのが、頭の中にこびりついたナチス思考という形のない恐怖や縋りたいモノであるならば、形のない愛がそれに勝るモノであると雄弁に語る。

人は未知なるモノ、知ることが止められているモノに恐怖するからこその戦争なのだと描く構図も憎い。

貧弱なジョジョの兵隊になりたい思想は「キャプテンアメリカ」のスティーブ・ロジャースのようで、ユーモアなイマジナリーフレンドに邪魔されているが、愛を注ぐことになる存在を助けるために自身の本質に気がつくことは似ている。

中盤に街にぶら下がった底冷えする戦争の真実から目を背けさせない視点のやり取り、そして手紙を使った代筆による恋から愛への発展。愛おしく体温のない戦争の最中に見える愛の成長から目が離せない。

恐怖や縋りたい思考の檻から抜け出して、自由の言い換えとしてダンスを踊るシーンは絶品で、少年と少女の世界を優しい大人が背中を押すのは「天気の子」でも胸に刺さるシンプルな助け船だ。

終盤に差し掛かる際に訪れるジョジョ少年のある圧倒的喪失は、画面にて何度も垣間見えていただけに何とも悲しい。いよいよ逃げられなくなる戦争とその結果の死の恐怖に一気に映画の体温は落ち込むのだが、クライマックスは「愛に出来ることは?」と問い、ジョジョ少年が大人の男、つまり愛する者を守るための兵隊として本懐を成すであろう靴紐の描写と、母親から授かった精神のリフレインに帰着する。
 
本作のスカーレット・ヨハンソンにアカデミー助演女優賞を!そして願わくば、私の靴紐も結んでくれよ。もう長いことほどけたままなんだよ。

誰か私のほどけた靴紐を結んでくれる人はいませんか?