小

新聞記者の小のレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
4.5
7月4日公示、21日投開票の2019年参院選挙を狙って公開した本作。フィクションだけど、誰が見ても現・安倍政権が抱える疑惑、独裁的にも見える官邸支配のあり方について、真正面から取り上げていることがわかる。

他の映画のようにテレビで俳優たちが宣伝することはなく、ユーロスペースの紹介記事の切り抜きに新聞媒体はない。誰もが気づいていながらも、口を閉ざしていることをはっきりと描いたという点において、評価し過ぎることはないと思う。

問題は観客が抱くであろう自分の国に対する不安を、鑑賞後も持続させることができるかどうかだと思うけれど、どうだろう。本作が一番伝えたいことは「この国の民主主義はカタチだけで良いんだ」という権力側について「本当にそれでいいんですか」と観客、つまり国民に問うことだろうと思う(どちらも台詞にあった言葉だったと思う)。

恐らくあちら側の批判に耐えうるよう考慮して、スクープ的なファクツはあったとしても盛り込まず既知の情報で組み立て、勧善懲悪ではなくある人物の葛藤に焦点をあてたヒューマンドラマにしたのだろうと思うけれど、多くの人への訴求力、観た人の記憶への定着という点では、ちょっと弱い気がする。

個人的には寝た子を起こしたのでないかという気がしている「老後資金2000万円問題」をテーマに、マイケル・ムーア監督よろしくサクッと映画をつくる人はいないのかしら、と思う。「モリカケ」については、しょせんは他人事みたいな空気が流れているように感じるし。

とはいえ、大手マスコミに期待を抱いていない方、映画の力を信じている方、日本の民主主義は危機的状況にある(あるいはもはや民主主義とは言えない)と思っている方--などは、本作の製作に携わった人達に力を与えるためにも観ておいたほうが良い気がする。
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