小松屋たから

新聞記者の小松屋たからのネタバレレビュー・内容・結末

新聞記者(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

最後、横断歩道で向きあった主人公の記者(シム・ウンギョン)と官僚・杉原(松坂桃李)。杉原の口元が(無音だがおそらく)「ごめん」と動くのだが、そのシーンを入れたかったのは誰か、それが気になった。勝手な想像ながら、きっと企画の「発案者」だろう。

もし、あの動きが無くて、二人は見つめあったまま、あとは観客の想像に委ねる、という終わり方にしていたら、その人はまだ日本に希望を持っていると捉えることもできた。しかし、あそこで杉原が挫けた、とほぼ明示されると、今の日本ではもはや自由は取り戻せないと訴えているように見える。

この作品を映像化しようとした志は評価されるべきだ。「発案者」が満足する映画になっていたら良いな、と思う。でもきっと、制作過程で、出資者やその他から色々横やりが入って「丸く」なったに違いなく、だからこそ、「発案者」が、ラストシーンでなんとか意地を見せたのではないか。

普通に映画としてみると、やや急ごしらえ感が否めない。作り手の「今、これを撮らなければ」という理念が先行していて、政治絡みの実在人物や、実際の事件を、形を少し変えつつも採り上げることの勇気は素晴らしいが、脚本内でうまく消化されているとは思わなかったし、主人公、官僚の行動動機や苦悩も類型的。起伏も乏しくエンタメとしては物足りない。

だから、この作品をある水準の映画たらしめているのは、ひとえに藤井道人監督とカメラマンの力だと思う。「藤井ブルー」というべきか、シアンの強い透明感のある画柄が、脚本の足りない部分を補って、全体に品格をもたらしている。

きっとこの映画は「挑戦的な内容」が称えられるか批判されるかが評価の軸になることだろう。でも、それらの声が大きければ大きいほど、それは、今の日本の言論・表現がいかに不寛容にさらされているかということを証明する結果になっていく。

自分としては、こういった政治的な作品が、前後左右色々な方向から、どんどん作られて、しかも、まずは純粋に映画としての良し悪しを自由に語り合える日本になって欲しいと思った。