Filmoja

新聞記者のFilmojaのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
4.0
地元のシネコンでは上映されず、ひと月半ほど遅れて、こじんまりとした個人経営のミニシアターで鑑賞。
地方とはいえ、初日の夜に観客は5人ほど。
大物俳優が出演しているのにも関わらず、様々なスポンサーでがんじがらめのテレビでのプロモーションは一切されず、メディアへの露出も少なめ…ネットと観客のクチコミで話題となり、政治がらみの社会派ドラマとしては(都市部では)異例の大ヒットスタートとなった本作。

公開直後からの話題性とも相まって、予想以上のスリリングな展開に嘆息。
全編にわたって流れる不穏な空気、緊迫感と不安感を煽る構図とカメラワークにセリフ回し。
ドキュメンタリータッチで描かれるリアルタイムな政治と報道の腐敗は、ただのフィクションとは言いきれない怒りと哀しみを漂わせ、観客へと突きつけられる。

こんなにも骨太でパンクな作風なのに、切れ者の役者たちがヒーローとしてではなく、等身大の人間像をリアルに演じるドラマ性に共感するし、何よりも現実に起きている事件や醜聞を元に描かれているので、どこか遠くの出来事ではない、すぐそこのサスペンスとしての説得力が半端ない。
終始ゾクゾクするような、うすら寒さを覚えながら訴えかけてくる問いは、どうしようもなく嫌悪感に満ちたものだ。

この映画はただの政権批判なんかじゃない。
むしろ、(定義はともかく)保守的な人たちにこそ刺さるアイロニカルな風刺ドラマとして見事なまでに再現していながら、社会派エンタメとしても、充分に見応えのあるものに仕上がっているのが素晴らしい。

それまでの現実的な描写から一転、事件の隠された真相がやや突拍子なことと、曖昧なラストの展開に物足りなさを感じるのは事実だけど、忖度の一切ない製作陣の覚悟と、卓抜した役者の演技でグイグイと引っ張っていく力強さは、近年のメジャーな邦画にはなかなかない熱量ではないか。

本作のクライマックスで描写される、政権を揺るがすスクープが掲載された新聞が続々と刷られていく輪転機のシーンにオマージュを感じる、スピルバーグ監督の「ペンタゴン・ペーパーズ」は、過去の史実から現代へ照射する、エンタメとしても優れたカウンター作だったけど、「新聞記者」はその日本からのアンサームービーとして、業界に一石を投じる“現在進行形”の作品だ。

誰もが政治と無関係ではいられない。
今、この国を覆っている理不尽な問題や漠然とした諦観は、何が原因なのか。
ジワジワと真綿で首を締めつけられるように、ぬるま湯がゆっくりと熱湯へ沸いていくような状況に、私たちは置かれているのではないか。

本作の興行と同じように、我々もまた試されている。
この現実を、この虚構を、あなたはどう受けとめるのか。それとも後に続く者(作品)もないまま、無関心を装うのか。
単なる左翼的なフィクションだと、斜に構えた態度で乾いた冷笑をし、嘲笑するのは簡単だ。
けれども、おかしいことにおかしいと声を上げることが、そんなにダサいことだろうか?

映画にできることはまだあるはず。
芸術の担う役割や、可能性を信じたい。
暗闇を照らすひと筋の光のように、保身と正義の狭間で揺れ動く人間の本質を真っ当に描いた秀作として、少しでも多くの人に観てほしいと願っている。
Filmoja

Filmoja