のん

天気の子ののんのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.4
新海ワールドが叩きつける社会に対する解



新海誠作品の最も特徴的な部分は実写を超越した背景、特に空の美しい描写だ。ゆえに最新作で天気をメインテーマに据えたことには、監督の明確な意図があり、かつそれに絶対的な自身があるからなのだろうと思う。



前作『君の名は。』は、監督が大手メジャー作品としてエンターテイメント的要素を大幅に増量しつつ、監督の作家性を両立させた奇跡的なバランスの映画で、興行的にもウルトラスーパー特大ヒットを飛ばした。


新作へのプレッシャーはかなりあったはずだ。絶賛評もあれば、あれがおかしい、これがおかしい、と否定的な評価もあり、監督自身が「そんなに言うならお前が作ってみろよ」と発言したこともあるくらいだ。


『天気の子』を作るにあたって監督が意識したのは「『君の名は。』を否定した人たちをもっと怒らせる映画を作る」だったと語っている。


RADWIMPSが劇伴、製作スタッフもほぼ前作と同じ、というサプライズが起きにくい体制で、この映画が作られたというのは信じがたい話である。これを観ると『君の名は。』がいかにまだ常識の範疇に収まっていたかがわかる。


監督は「社会の常識やルールにあえて挑戦している」と語るように、この映画の登場人物は、みな真っ直ぐで、ゆえに軌道修正が効かない危うさを持っている。


劇中の登場人物で「世の中なんてのは初めからどこか狂ってる」という台詞が飛び出しているが、監督の世の中に対する見方なのかもしれない。


大人になるなかで少しずつ社会の規範やルールに染まっていく、そんななかにあって主人公二人の真っ直ぐな想いだけが作品を貫く。


この直球ストレートの強い気持ちが交錯するクライマックスは『君の名は。』を超える感動があり、物語的なブーストが強めにかかっている。


前作がエンタメのど真ん中を射抜いた物語だとすると、『天気の子』は、かなりの変化球だと思う。既成概念をぶち破る終盤の展開はおそらく多くの人のなかでハレーションを起こすだろうし、たぶんそれが常識的な反応だろう。


新海誠監督のこれまでの作品は、登場人物たちの内面の比重が高く、『君の名は。』で初めて現状を打破する前向きな姿勢へ転換した。


『天気の子』はさらにその先をいく。新海誠の深化は止まらないし、もう戻ることもないだろう。この映画の言葉を借りるなら、監督はこの作品で「世界の形を決定的に変えてしまった」のだ。
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