140字プロレス鶴見辰吾ジラ

天気の子の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.4
【ライ麦畑でつかまえて】

つないだ手なら離さない
降りしきる雨の中で… 
(B'zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」より引用。)

まず始めに。
本作は「君の名は。」
よりも好きです。

令和の時代に蘇ってくる尾崎豊のような精神。そして本作は少年と少女の怪獣映画なのではないでしょうか?
「ゴジラ キングオブモンスターズ」でモヤモヤした方へ。そして「万引き家族」で悔しかった方へ。本作のクライマックスのあまりに攻撃的な物言いに何か超越した快感を覚えてしまいました。「大人はわかってくれない。」、「君の名は。」は一種の呪いになるのでは?と不安を抱いていた一部に本作は傑作だと思わせる熱量が内包され「トイストーリー4」のレリゴー精神を遙かに凌ぐ“Let us go“の精神に雷に打たれたような衝撃が体に流れました。

興行収入という大衆への評価に対して内面を削ったクライマックスであった「君の名は。」から3年。新海誠は悪魔ないし大人に魂を捧げたように思えました。彼は「オトナ帝国」の側に行ってしまったのでしょうか?しかしながら本作で「オトナ帝国への逆襲」を見たかのようなおもいが生まれます。そして「支配からの“卒業“」を示唆するような、愛する者を結婚式の会場から奪い去るが如くの若者の向こう見ずな熱情が、劇中で語られる物語の終焉予測を悉く破壊することは快感です。

劇中でまたも「ムー」が示されます。それは【オカルト】という非現実的なものを信じる希望に似たものかもしれませんし、冒頭の雨の陰鬱の中に神秘的に照らされる天使のハシゴの中の鳥居がその希望を掻き立てます。

大人はリアリズムによって支配されていて、そこにまだ何者にも成れていない少年少女が大人の真似事をしていくうちに疑似家族が形成されていく過程が秀逸で、是枝裕和の「万引き家族」の絆の精神とそれに対しての大人の正義、正しいと言われている正義が降りかかることで若者は脆弱だと思い知らされます。しかしオトナ帝国からの支配は卒業できるものだと劇中のまだ未熟な大人が助け船を出す犠牲を持って、リアリズムや超常的な現象(本作の大雨の中で示される怪獣が現れたようなアラートと喧騒と絶望的沈黙)をも振り切って“愛“にできることを追いかけ走るシーンは実にエモーショナルです。線路という運命の上を走ることに奇異の目を向けられながら、それは止めることの出来ないアンタッチャブルな精神だというのを新海誠が主人公に重ねたの如く映像に乗せてくるシーンは大好きです。  

本作は「ゴジラ キングオブモンスターズ」のエゴの暴走より愛おしく、「シンゴジラ」の犠牲の上の地鎮祭のその先を行ってしまったような気がします。

「To infinite and beyond」

愛が狂気的で、そして美しく、しかし愛であることを足掻こうとした少年少女の何者でもまだなかった熱量がエントロピーを凌駕して、我々の胸に届くのは素敵なことだと思います。

We’ll be all right.