Filmoja

天気の子のFilmojaのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.5
どうせ「君の名は。」の二番煎じだろ?
今や押しも押されもせぬヒットメイカーだもの、保守的で売れ線な作りで、数々のフォロワー作品と似たり寄ったりなものになっても仕方がない。
何せメガヒット作のあとだ。同様のクオリティーを求められるのは宿命に等しい。

キラキラした青春のボーイ・ミーツ・ガールなんてもう見飽きたよ。いつまで夢見てんだ?
さっさと大人になって現実を見ろよ。人生はそんなに甘くない。愛だの絆だの、キレイごとで生活できるなら苦労しない。世の中、結局カネだろ?

自分の中の暗い価値観が、腹の底でくすぶり続ける。それはある意味では正論だ。大人が若者に対してふりかざすパワハラまがいの暴力的な正しさは、何かの役に立つのだろうか。
それで社会の公正さが保たれるのか?

そんな疑問が澱のように淀んでいた。
本作を観る前は。

この物語は、前作の大ヒットに伴う様々な批判にさらされ、以前からの評価とはまったく別のベクトルで語られるようになってしまった新海誠監督の、そんな世間に対する痛烈なカウンターパンチだ。

歳を取るにつれて、大事なものの順番を入れ替えなくなり、優劣は固定され、問題は見て見ぬふりをする。
みんな疲れているんだ。諦めろ。それが処世術ってヤツだよ。

そんなずる賢い大人たちに向けられる、不器用で、純粋で、まっすぐな想い。
誰もが持っているはずの、心を突き動かす本能的な衝動。

世界が変わってしまったとしても、君と一緒にいたい。

とことん、利己的であれ。
そう言っているかのような少年の行動は、決して誉められたものではないだろう。むしろ万人にとっては受け入れられない方が自然だ。

けれども、閉塞感に満ちた社会からこぼれ落ちてしまった者たちに、生きる価値はないのか。
都会の片隅で、じっと息を潜めるように誰にも気づかれることなく、存在しないも同然の者たち。
何もかもが生産性や効率性で計られる時代において、そういった社会的弱者に向けられる、監督のあたたかな眼差し。
見かけはなんてことのない少年少女のラブストーリーでありながら、その実、かなり野心的に踏み込んだ意欲作だ。

どうしようもできない気象現象に抗い、人間の都合で勝手にねじ曲げられる環境や生態系。
昨今、猛威を奮う自然災害。
古来からの言い伝えやスピリチュアルな神道とも絡ませ、アニマ(魂)信仰とも思える(前作からの)テーマ性も含ませ、日常から地続きの、極めて“今風な”ファンタジーに仕上げたバランス感覚は見事だし、好感が持てる。

とりわけ雨や水の美しさ、晴れわたる空の爽快さ、まるで鬱屈と幸福が交互に訪れるような描写は「言の葉の庭」に通じるものがあるし、クライマックスに向けての爆発的な感情の発露は監督の真骨頂だ。

何よりビジネス的な成功を約束されていながらも、あえて作家性を打ち出し、観客に媚びない、やりたいようにやる、という宣言であり、エンタメとして成立させてしまう凄み。
演出、演技、音楽が一気呵成にリンクして、心が浄化されていくようなカタルシス。

人物描写が弱い、脚本に抑揚がない、ワンパターンな演出、都合の良い展開。
納得いく答えのない、曖昧なラスト。
そんな指摘をはね返すように放たれる、一石の希望と、ひと雫の勇気。

人間の驕りや業もすべてひっくるめて肯定する、生きぬくたくましさに思わずエールを贈りたくなる。そして、改めて本作は問いかける。

「愛にできることはまだあるかい?」と。
Filmoja

Filmoja