Filmoja

21ブリッジのFilmojaのレビュー・感想・評価

21ブリッジ(2019年製作の映画)
4.0
昨年、癌による闘病の末に急逝したチャドウィック・ボーズマン最後の主演作にして、マーベル映画のルッソ兄弟が製作に携わったクライム・アクション。

NYは真夜中のマンハッタン島を舞台に、麻薬強奪事件の犯人を追跡するため、島をつなぐ21の橋を封鎖する…。
東京に見立てるなら、お台場周辺を完全封鎖するのに近いだろうか(踊る大捜査線か?)。

最近は久しく90年代的ベタな(失礼!)作風がめっきり観られなくなってしまったので、本作のようなストレートな銃撃戦やスリリングな展開が逆に新鮮味があって嬉しかった。
ありがちなプロットは序盤でおおよその見当がついてしまうものの、ほぼ夜のシーンで固められた都会的な描写は、往年のノワール映画や刑事ドラマを彷彿とさせるし、何より本人が憑依したかのようなチャドウィックの誠実な役柄が素晴らしく、ダーティーでハードボイルドな雰囲気をまといながらも、あくまで正義を信じる矜持を貫く捜査官をリアルに演じている。

そして犯人側の描写にもぬかりがなく、元軍人という設定を如何なく発揮させながら(退役軍人への不遇という問題提起も)、アメリカ社会の病理(銃、ドラッグ、人種、貧困格差、過剰捜査)を炙り出す。

追う側と追われる側を対比させながら、お互いの事情が徐々に交差していく手法は(分かってはいても)エモーショナルだし、終盤で犯人を追いつめる地下鉄でのシークエンス(会話劇)は、これまでの伏線を存分に活かした緊迫感あふれる見事なシーンだったと思う。

当時も闘病中だったチャドウィックの、やや痩身ながら体当たりで演じる姿勢は(もちろんスタントがいるとしても)頭が下がるし、役柄や人間性を理解して説得力を持って演じる凄みに、改めて敬意を表したい。
シンプルな作風ゆえに、主演が彼じゃなければ、凡庸な犯罪ドラマに映っていたかも知れない。

ちなみに相棒の麻薬捜査官役のシエナ・ミラー。キャスティングを巡るインタビューで、製作会社が渋っていた彼女のギャラの一部をチャドウィックが負担していたという驚きのコメントも。
自身もデンゼル・ワシントンに留学費用を支援されていた経験を踏まえての行為だったとしても、まったく異例の善意だろう。

彼の主演作が劇場で観納め…ということだけでなく、マンハッタンと同じように世界中がロックダウンとなった昨今を経て、人と人との交流や、対立しているように見える現代社会において、いかに人間同士が“分かり合うこと”と“支え合うこと”の重要性が垣間見えるエピソードだった。

彼のいない映画界の損失は計り知れないけれど、志半ばで倒れてしまった彼の功績は、人々の記憶の中でいつまでも色褪せないだろう。
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