タケオ

シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢のタケオのレビュー・感想・評価

3.5
「不運は考えても無駄。不運なときはこれはどん底やスタート地点やと思って、今よりも一歩前に出る方法を考えるようにします」とは、水泳指導者 井村雅代の言葉である。彼女の熱いスパルタレッスンの元、数多くの選手が世界大会でメダルを獲得していった。しかし、本作で「シンクロナイズドスイミング」を通してどん底から再起を図るのは、お腹ダボダボのダメオヤジである。

鬱病、変人、短気、中二病 etcと、シンクロのメンバーは誰もが皆 社会の最下層民であり、彼らを鍛え上げるトレーナーたちですら暗い過去を抱えている。老人ホームで薬を奪ったり、ブチきれて車椅子のトレーナーをプールに突き落としたりと、オフビートながらもかなりブラックな描写で笑いをとりにくるあたり、似たような作品でも『フルモンティ』(97年)より全体的に闇が深い。

だが、主人公が皆どん底人間だからこそ、彼らが互いの葛藤や苦しみを共有し、共に世界大会へ挑もうとする姿をみているとアツい涙が溢れてくる。『ロッキー』シリーズ(76〜06年)ばりのモンタージュ•シーンまで用意されているため、もう興奮するしか道がないのだ。

井村雅代の名言はスポーツ選手のためのものではない。非情な現実に戦いを挑む負け犬たちへの熱いエールとして捉えてもいいはずだ。そして本作では、ダメオヤジたちがその'手本'を見せてくれる。

前に進め、荒れる大海原へと飛び込み、無様でもいいからもがき続けろ。いつかはきっと、美しき'朝日'が人生に差し込む時がくるはずだ——と。
タケオ

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