銀色のファクシミリ

“隠れビッチ”やってました。の銀色のファクシミリのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

『#隠れビッチやってました。』(2019/日)
劇場にて。原作未読。「~やってます。」ではなく「~やってました。」な、いわゆる「こじらせ女子」の成長譚。そして「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という格言の、愚者側を体現するような、目指すゴールへ全速力で遠回りしている女の子の物語。

あらすじ。「清楚でカワイイ女の子」を研究し、演じつづけ、男をその気にさせたところで振る。ひろみ(佐久間由衣)の承認欲求を満たすための隠れビッチ活動の相手はもう600人に届いていた。しかし運命の人との出会いによって、ひろみは自分に人間的な厚みも誇れるモノもないことに直面してしまう。

感想。コメディテイストながら内容はド正面の自分探しストーリー。運命の人との出会いで、隠れビッチな正体を隠して交際を続けながら、誇れる自分を探す前半。二度の涙のシーン、特に「いつもの自分の内なる声」を自分が聞いてしまった時の、溢れ出る内省の涙が良きでした。

主人公ひろみは、要所要所デカい声で思っていることを発表してくれるので、物語は分かりやすい。でも自分でもはっきりとは言葉に出来ない気持ちがあって、それが自分にとって、とても重要な事であると気づいていく。そういうシーンも多いのが、この作品の良いところと思いました。

物語の後半、ひろみは自分の正体を知っているのに好意を寄せてくれる相手と出会う。運命の人とは別の人だけど。正体を隠さなくていい解放感、本当の自分を認めてくれる事で満たされる承認欲求。しかしその気持ちのエスカレートの果てに、今度は自分の過去と決して認めたくない事実と直面してしまう。

後半のこの場面は、少し前から「あれ? これはそういうことだよね?」と観客に気づかせておいてから、ひろみに悟らせるという構成で物語を牽引しているように見えました。余談ですがここは菅田将暉主演のある映画を思い出させ、そして重要な主人公の〇〇役が同じ俳優さんという奇遇。狙ったのかな?

全速力で見当違いの方向へ突っ走り、苦い経験の果てに教訓を得て、また別の方向へ全力で走っていく、ひろみの日々。盛大な遠回りの果てに辿りついた場所で彼女を待っていたものは、というラスト。みんな似たところあるよ、あなたは最善の最短ルートで生きてるの? と解釈しました。感想オシマイ。

追記。キャストは大後寿々花&村上虹郎と、職人レベルの達者な面々で文句なし。森山未來は「今回は正邪硬軟、どの森山未來なの?」という、津田寛治さん他数名しかいない希少な俳優さん独特の緊張感。そしてひろみ役の佐久間由衣さんの「デカい声かわいい」魅力を発見した作品でした。追記もオシマイ。
(2019年12月7日感想)