Filmoja

イン・ザ・ハイツのFilmojaのレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
4.0
「移民の歌」ーーーとは70's UKロックの雄Led Zeppelinの名曲だけど、本作は北欧ではなく中南米からの移民をルーツに持つ人々が、ラテンミュージックに想いのたけを乗せてパワフルに歌い踊る、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化だ。

情熱あふれるラテンの誇りを高らかに歌い、リズミカルなラップと軽やかなダンスに魅了される物語の舞台は、無数の夢あふれるワシントンハイツ。
NYCの片隅で懸命に生きるヒスパニックにスポットを当て、遠い故郷に想いを馳せながらも、恋や夢を追いかける若者たちをメインに様々な人間模様を描く。

全編を彩るポジティブなミュージカルシーンに目(耳?)を奪われるけれど、その裏に潜まれる社会問題(人権、格差、差別、不法滞在)など移民ならではの苦悩も描かれ(前大統領トランプの国境の壁建設も記憶に新しい)、それでもあまりシリアスになり過ぎず、半ば強引にでも希望を謳歌する様はラテン・ミュージカルならでは。

前情報なしで鑑賞したので、アメリカ移民についての歴史を理解してから観ると、より一層、感情移入できるかも。
もちろん、そういった知識がなくても、キャストの自然な演技や歌唱だけでグイグイ引っ張られるので十分に楽しめるし、会話シークエンスでシームレスにつながるラップのクールな見せ方は、ミュージカル特有の“突然歌い出す”違和感を緩和させ、さらに人物像を掘り下げる役割をも同時にこなしてしまう秀逸さ。

自身も移民をルーツに持つ原作者で、ブロードウェイのスターでもあるリン=マニュエル・ミランダ(近作では「メリー・ポピンズ リターンズ」の演出が素晴らしかった!)が手掛けているとあって(自身も出演)、楽曲はすべて抜かりなくキャッチーで、サルサやズンバなども取り入れることで、ラテン文化へのリスペクトが脈々とみなぎる、これまでにないミュージカル映画になったと思う。

近年では「ラ・ラ・ランド」がLAを舞台に、数々のミュージカルにオマージュをささげ、夢追い人の男女の悲恋を感傷的に描いたのに対して、本作のあっけらかんとしたオープンな姿勢は対極の作風だ。

欲を言えば、冒頭から度々挿し込まれる子どもたちに語りかけるラストへの伏線や、キャストたちの歌唱シーンがややトゥー・マッチで、2組のカップルに主眼を置き、編集でもう少しコンパクトにまとめればテンポよく鑑賞できたのでは。
これでもかと詰め込まれるメッセージは、情報過多でおそらく字幕では収まりきらず、特にラップなどは韻も含め、英語を理解できたらダイレクトに響きそう。

住民たちが自力で人生に立ち向かう姿勢は勇気を与えてくれるけれど、主役のウスナビの“幸運と決断”で、結局すべてが丸く収まってしまうラストは、いかにもミュージカル的なハイライトで笑ってしまった。


非力なものたちに力を。
高騰する地価を尻目に、“忍耐と信仰”を胸に、ワシントンハイツでたくましく日々の暮らしをまっとうする、夏の光景がまぶしい移民讃歌だ。
Filmoja

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