horahuki

アガサのhorahukiのレビュー・感想・評価

アガサ(2018年製作の映画)
3.6
あなたに母親は無理よ!

金もない。住むところもない。そんな妊婦に救いの手を差し伸べてくれるシスター。彼女に誘われて向かった教会は、妊婦を監禁&拷問するイカレたシスターたちの巣窟だった系の胸糞ホラー。

『SAW』シリーズはそれなりに好きだけど、『ホーンテッドサイト』で個人的にガッカリさせられたダーレンリンバウズマン監督によるナンスプロイテーション。元々の脚本は『SAW』や『ホステル』並のゴア描写に溢れたものだったようですが、ダーレン監督がゴア描写を削ぎ落としたために、グロはないとは言えゲロはあるというダーレン監督の好みが良くわからなくなる作品。

女性が婚姻せずに子どもを産むことをタブー視していた1950年代を背景に、妊娠してしまった女性たちへと救いの手を差し伸べる教会という構図をガッツリと裏切ってくるかと思えば、その裏切りに明確な意図を含ませることによって何が正しいのかを観客に問いかける物語へと変貌していく。

プランドペアレントフッドのような議論を巻き起こすようなことを映画の形でやろうとした本作は、テーマ的には数年前に有名な作品があるためにそれほど真新しさを感じるものではないけど、先発作品と違って臓器売買的な事件の発覚後に作られただろう本作はまた違った印象を持って見ることができるから面白いなって思った。まんまリンクしてるように見えるというね。

大義名分という逃げ道が、汚い欲望の絶対的な隠れ蓑として機能してしまう怖さは本作に限ったことではないけど、欲望と社会的実益が一致してしまうことも当然あるわけで、シスターが正しいのかどうかはわからないけど、無意味に「繋がり」を神格化する必要もないのかなとは思った。

キリスト教のことは全くわからないのだけど、メアリーからアガサへの変更の意味にも色々と込められてそう。妊婦の名前がメアリーという露骨さは笑っちゃうレベルだったんだけど、子を産むという不可侵な善を表現するのにバッチリなんだろうし、卑しい存在だからと言ってメアリーを奪われアガサを与えられるのも意味深。メアリーを奪うことで母親失格の烙印を押し、金持ち…というか権力者なり欲望なりを迎合することなく殉教したシチリアのアガサの行動を批判する意図を持っての変更なのだろうけど、「子を産む」という行為に結構危険な切り口でメスを入れようとするのが面白かった。

もちろんそんな母親とか子を産むことを批判する意図のある作品ではなくて、それを材料に議論してくれよって感じの作品でした。正しいかどうかは置いといて、先発の有名作よりもこっちの方が色んな方面から怒られそうな気がするし、そういうとこ含めてこっちの方が好きかも。

R1.10.19追記
批判って書いたけど、コメント欄でのやり取りを受けて、もっと単純に母性の剥ぎ取りによって母親失格の烙印を押す意図の方がしっくり来るような気がしています。
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