平野レミゼラブル

サイダーのように言葉が湧き上がるの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.0
【世代超え/迸る夏蒼く/ジュブナイル】
まず、内容云々以上にエンドロールで流れた「チェリーのお父さん:神谷浩史」で宇宙猫状態になる。なった。

https://twitter.com/28kawashima/status/1412738254680428546

最初お父さんの声聴いた時は「なんか聞き覚えあるな…誰だ…?」って思ったけどさ、あまりにイメージと乖離しすぎていたから本当にビックリした……いや、わざわざ神谷浩史が演じるお父さんにしちゃ老けてるというか、やけに普通のお父さん感が凄くて……
お母さん役のまーやは流石に声聴くだけでわかりましたが、そっちはそっちで同じように普通のお母さん感が凄いキャラデザだったので、やはり容姿と声が乖離している感がある。
タフボーイのお母さん役の喜久子お姉ちゃん(17)はそういうお母さん役のイメージ強いにしても、ほうれい線の目立つリアル路線のお母さんデザインなんでやっぱりちょっとビックリしてしまう。


まあ、そんな親世代のキャラデザと声という枝葉末節はさて置き、本作は夏休みの架空の地方都市「小田市」で出会う高校生男女のボーイ・ミーツ・ガールを描いた瑞々しい青春ジュブナイルになっています。
出会う男女はコミュニケーションが苦手で人から話しかけられないよう常に「ヘッドフォン」を付けているチェリーと、動画サイトでカワイイを常に発信しているけど矯正中の出っ歯がコンプレックスで常に「マスク」を付けて隠しているスマイルというそれぞれ正反対な2人。「ヘッドフォン」と「マスク」は彼・彼女にとっての防具でもありますが、かたや付けることでコミュを拒否、かたや付けることでコミュを発信できるというのもまた正反対で面白い。

劇中では全編にわたって「俳句」のグラフィティアートが映されますが、これはチェリーくんの趣味でして、彼は口に出してコミュニケーションを取る代わりに思いの丈を俳句にしてSNS上に発信しているのです。
まあ、SNSでも全くフォロワーを作ろうともしない辺り、筋金入りのコミュ障ではあるんですけど……逆にアイドルヲタクのジャパン(cv花江夏樹)や、彼の俳句をあちこちにタギング(落書き)しているビーバー(cv潘めぐみ)という濃ゆい友人達がいるのが不思議なくらいです。

なお、本作に出てくる俳句のほとんどはタイトルになっている「サイダーのように言葉が湧き上がる」や「夕空のフライングめく夏灯」のような独特の文節で区切るものだったり、そもそも五七五の定型も守られていない自由律俳句だったりで多種多様。
俳句の良し悪しとかはわからないんですが、これらの俳句は全て現役の高校生俳人たちから寄せられたものを使っているとのことなので、リアルな高校生の感性そのままであるのは間違いないでしょう。カタカナ交じりの言葉選びからして新鮮かつ瑞々しい雰囲気が伝わってきます。
むしろ型にハマらない自在さと素直さ、それでも俳句という形式を用いてクールさを求める方向性が中々面白いです。

言葉を大事にする作品ではありますが、実際には言葉に頼らない演出も多用しており、画をよく見ていれば先の展開がわかる仕掛けも施されています。『マクロス』シリーズを始めとしたアニソンレーベルであるフライングドッグ10周年記念作品ということもあって、MVのように展開する場面もキマっている。
色調をパステルカラーで統一し、線もあまり使わないポップな画もお洒落かつ爽やかで、正に夏のアニメに相応しい清涼感。ただ、冒頭でそのパステルでカラフルな存在がところ狭しとグルグル激しく動き回ったんですが、その部分は目がチカチカしてちと疲れちゃいましたね……こんなところで老化を感じてしまったことに若干哀しさがありますが、まあ映画を楽しむのに歳は関係なし!映画はいつだって青春です。

チェリーが俳句を発信するSNS、スマイルが配信をする動画サービス、そして2人が取り違えて知り合うきっかけになるスマホといった現代テクノロジーを日常とした上で、その中での若者同士の繋がりも有りふれた当たり前のものと描いた部分も極々自然で良いですね。
もはや現代のボーイ・ミーツ・ガールでスマホは絶対必須のものであり、ネット上で気軽に知り合って出会うってのも当たり前の光景なんですよね。その当たり前は重々承知のものとして話を進めていくので、話のテンポはかなり良く音楽や言葉のリリックの効果もあって物語はさらに軽やかに。

スマホ中心に進んでいくとはいえ、スマホ世代じゃない人はついていけないのかと言うとそうではなく、スマホを持たないフジヤマ老人(cv山寺宏一)の思い出のボーイ・ミーツ・ガールもチェリー&スマイルの物語に絡んで後半に展開していきます。フジヤマ老人は大切にしていたものの無くしてしまったレコードを探し求めており、その探索に若人2人も挑むことになるのです。
レコードという旧時代のモノも、スマホと同軸に大切な宝物として描いたからこそ、世代間をも越えた普遍不朽の青春として成り立たせていたのもまたニクい。
クライマックスとなる夏祭りで、盆踊りの音頭を若者にとってはダサい(1名除く)としつつも、代わりに流すのがTHE昭和な大貫妙子というのも面白いです。

ただ、TikTokでも若者の間で昭和の曲も流行ったりすると聞くし、意外に若者カルチャーに「古い」ものが回帰していくこともあるのかもしれませんね。昭和の歌謡曲とかの古臭いメロディが、現在じゃ聴き慣れないが為に「斬新」と映る可能性があるように。
考えてみれば、俳句に関しても古臭いというイメージがありますが、チェリーたち高校生の詠むそれは全てが「斬新」でした。俳句も確実にアップデートを重ねているということで、新旧入り交じる文化に世代は関係ないよということも表しているかもしれません。

若人の力を感じる例としては本作の主演2人、チェリーの市川染五郎くんとスマイルの杉咲花ちゃんが非常に透明感のある演技で、声優は本職じゃないにも関わらず達者だったことも挙げられますね。むしろ、最近は声優担当する俳優さん達もみんな器用で、巧く演じられてますよねェ…
お祭り会場の祭り櫓の上で成される2人だけのやり取りは圧巻で、アラサーにはちと小ッ恥ずかしい面がありつつも最後まで爽やかさが続く良質なお祭り青春ジュブナイルとなっていました。


因みに僕が一番好きなお祭り青春描写は、『惡の華』の祭り櫓の上で「クソムシどもが!!」と叫びながら灯油を被って焼身心中を図るヤツです。そんな嗜好のヤツがこのキラキラ青春映画の感想を書くな。