140字プロレス鶴見辰吾ジラ

映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.5
【ジョーカー】

ジェレミー・ベンサムが提唱した功利主義。「最大多数の最大幸福」。最大値から外された者たちの救済の物語。

トッド・フィリップスの「ジョーカー」は、完成度は高かったがそれは狂気という考えの功利主義にすぎない。パッチワークの傑作としか思えない。ポール・シュレイダーが脚本した「タクシードライバー」や宮沢賢治の「よだかの星」のあの質感に遠く及ばない。多数派をはじかれすみっコで暮らす者たちには。

仕事で気に病んで上司に相談したら「お料理教室に通え!」と意味のわからない提案をされて、功利主義から爪弾きにされたのだと改めて痛感した。しかしながら職場のスタッフにはいつも助けられている。本当にありがとう。

しろくまは幸福なハズの寒さから逃げ、ねこは自分を後回しにして責任から逃れ、とかげは自らを隠し、とんかつは食べられるという死を願い、ぺんぎん?はアイデンティティを喪失している。社会のすみっコが居場所だった者たちが、フランケンシュタイン症候群に効くクスリとして描かれる。

泣くなって言われても
泣いてしまう。
泣かないなんて
そんなの無理だよ。

自己承認を満たされたり、仲間に励まされたりしながら何とか喪失をやり過ごした者たちに訪れる奇妙な冒険は、セリフのない物語ゆえに、我々が建前に隠した本音を悉く映した偶像崇拝として機能し、性別すら不透明なセクシャリズムの面白さは、すみっコで目立たないデッドプールだ。

物語の設定や伏線、そしてファニーに描かれるフランケンシュタインの構造は、かつてのハリウッドにあったヘイズコードの中で本音を炙り出すような魅力がある。

喪失を逃れた者たちが喪失を余儀なくされるのは、月を背景に描いた冒頭から始まり、自己犠牲で済まさぬ物語による救済によって、血統主義も廃され、仲間のもとに行くことも許されないシステムに温かい花を贈る。

大傑作!!
年間ベスト級!!

私はこのレビューを喫茶店のすみっコで書いている。彼らが私に寄り添う者だという偶像という希望を崇拝して。