彦次郎

ラストナイト・イン・ソーホーの彦次郎のレビュー・感想・評価

3.8
服飾専門学校の同級生からは田舎者扱いで冴えないエロイーズが男嫌いな婆さんの下宿屋夜毎に夢で歌手サンディとして自分の好きな60年代の世界を満喫することで現実が充実してくるというポップで不思議でも元気をもらえるお話!…ではありません。中盤まではその通りなのですが歌手志望のサンディがマネージャー兼恋人のジャックによりストリップショーの踊り子となり更には売春業を強いられていくことで荒廃していくのみならずサンディがジャックに殺害されるリアル幻覚が出現することでこの作品がサイコホラーであることに気づかされます。
バーの常連客の老人がジャックではという疑念から現実世界でも危機を感じ警察でも薬をやった精神異常者と扱われる始末で味方は田舎に残った祖母と同級生の黒人男子ジョンのみというのも都会ロンドンで人が多いのに孤立感が際立つ仕様になっていました。ジャックが1番怪しいですが元ルームメイトで事あるごとにエロイーズを見下すジョカスタ(多分作中でジャックよりもこっちの方がムカつく)ややたらと絡んでくる親切なジョンも怪しくミステリー的要素も感じられます。何より真相に意外性がありましたので最後まで鑑賞していただければ幸い。
元々第六感があり殺人が行われたかもしれない部屋で悪夢を見るという嬉しくもない特殊能力を持ったエロイーズが不憫ではありますが突然授業中に声を出して離脱してしまう60年代に固執した変人にしか見えず彼女自身も怪しくなってしまうのが面白かったです。
ファッション業界のことはよく分かりませんが狂気かつ凶器を振り回して危うくジョカスタを殺しかけたエロイーズが才能を認められる場面(まあそうしないと話がまとまらないのもある)を見るに歌手に憧れ転落したサンディの住む世界と変わらない危うさがあるということを提示していたのではと妄想した次第。
エロイーズを演じたトーマシン・ハーコート・マッケンジーは時間の流れが早くなる海岸『オールド』にも出演されていました。本作では入学時の素朴な地味さ、イメチェンして金髪、恐怖に追い詰められて病んでいると変遷していきますが、そのどれもがとにかく可愛いという稀有な存在感であったと思います。普通にサイコホラーでなく青春モノとして別バージョンがあっても楽しめたかもしれません。
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