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モービウスのbackpackerのレビュー・感想・評価

モービウス(2022年製作の映画)
3.0
闇を統べる極彩色の天使≒悪魔の誕生

ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)第3作。
主演はサイコスリラー系に強い演技派、ジャレッド・レト。
助演には『ドクター・フー』11代目ドクター役でお馴染みマット・スミス。
『ワイルド・スピード』シリーズのタイリース・ギブソンなんかも出ております。
マイケル・キートン?いや、まあ、彼はね……ね?

人命救助を第一とする高潔な医師であると同時に、人血を求める吸血鬼でもあるというアンビバレントな主人公のオリジンということで、現代版スペースホラー『ライフ』のダニエル・エスピノーサを監督に迎え、ホラー色強めの演出を多用する本作。
影、夜、闇という色調の暗いシーンがかなり多いため、黒が鮮明にでるスクリーンの方が良さそうです。

個人的には、メロドラマとアクションと苦悩・葛藤がバランス良く配置されていましたし、上映時間も長すぎず短すぎずのいい感じで、「そうそう、こんなもんだよね」という期待値通りの納品でした。
ただ、オリジン系の話のよくある流れからまったく外れず、あまりに馬鹿正直かつ丁寧になぞってしまったうえに、限られた尺にギュギュッと詰め込んでいる為、ありふれた内容がダイジェストの如く猛スピードで進んでしまいます。
近年MCU式に作られた主人公のオリジン映画は、どれも時間が長いため、正直これくらい短いのはありがたい。ただ、この昔ながらの作りをするオリジン物語に対し、原点回帰したと好意的にとるか、ありふれた作りでつまらないととるかは、人によると思います。
私は肯定派。特に上映時間。最近のは長すぎます。
結局はヒーローのオリジンなんてこんなもんだとも思ってますし、難解なアレコレは全く求めていないので、無難にちょうどいい作品でした。

ちょっと笑ってしまったのは、明らかにバットマンを意識・オマージュしたシーンがあったこと。
(バットマン意外にも、ゴシックホラーや最近のホラー作品へのオマージュだろうなと思うシーンも結構ありましたが、ホラーに明るくないので完全には理解しきれませんでした。)
モービウスが捕獲した吸血蝙蝠が羽ばたく水槽の中に入るシーン、『バットマン ビギンズ』っぽい画面に加え、流れる劇伴まで『バットマン ビギンズ』風(この劇伴のバットマン風の具合は凄まじく、エンドロールで流れた時は本当にバットマンっぽく感じました)。
オマージュというより、他人のふんどしを借りて相撲を取って、"蝙蝠男"演出をわかりやすくしたとしか思えませんが、MCUの蝙蝠男から、DCの蝙蝠男へのラブコールですかね。


総括すると、本作はSSUの先輩でたる『ヴェノム』シリーズ同様、「こんなもんでいいのよ」を真っ向から叩きつける、絶妙にちょうどいい塩梅の映画でした。
ただし、超ありふれた流れを短時間に凝縮させた作りを受け付けられない人には、あまり向いてないかもしれないなと思いました。

サイケなネオンカラーのOP&EDや、Mの字を意識させる演出、突如挿入されるアイリス・イン形のワイプ、抜群に素晴らしいマット・スミスのヴィラン演技(この人の演技は最高。もうマット・スミスを見る為だけに本作を見るくらいの感覚でいいと思います)等、良くも悪くも頭に残るシーンは色々ありましたので、アメコミ映画に興味がある方は、見ても損はないのではと思います。
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