平野レミゼラブル

最強殺し屋伝説国岡 完全版の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

4.0
【『ベイビーわるきゅーれ』製作秘話!!秘めたる殺し屋の日常の実態とは!?】
『ベイビーわるきゅーれ』の大ヒットのためなのか、先月の『黄龍の村』に引き続き阪元裕吾監督の過去作品が公開されているのが嬉しいところ。そして、本作『最強殺し屋伝説国岡』は2018年の自主製作映画であり、最も『ベイビーわるきゅーれ』に縁深い作品となっています。
というのも、本作はドキュメンタリー映画であり、当時『ベイビーわるきゅーれ』の構想を練っていた阪元監督が実際に「協会」に所属する殺し屋に取材をしに行き、ついでにその様子を映画にしてしまおうという目論見の下で撮られた作品だからです。
密着先は殺し屋稼業を始めてからまだ3年ながらも“京都最強”とも称される期待のルーキー・国岡昌幸(23)。飯を食って、人を殺して、寝るという異常なサイクルの中で生きながらも、日常の中で笑って泣いて恋をして酒を飲むという一般人とそう変わらない人間として捉えたサマは、ちさととまひろの造形にも活かされていますね!!
そういう意味では本作、殺し屋という未知なる世界を覗き見ながらも、ひとりの人間として国岡氏に共感できる良質なドキュメンタリー映画であり、『ベイビーわるきゅーれ』製作秘話としても成り立っていて一粒で二度美味しい作品になっているワケですね!!

オススメ!!







……なんで密着取材だってのに、頻繁に手持ちからBカメに視点が変わりまくるんですかね?

これを言うとビックリされる方がほとんどかもしれませんが、本作は実は実際の殺し屋に密着したドキュメンタリー映画では断じてなく、“そういう体”で撮影されているフェイクドキュメンタリー、所謂モキュメンタリー映画なのです。
ただ、爆発が起きた瞬間に明らかに別アングルからの視点になりますし、しょっちゅう監督以外のカメラに切り替わりますし(一応設定上はサブカメラマンもいるっぽいですが)、死闘の最中にグルっと背面に回る等のアクション映画としての撮影が頻発されます。なので、モキュメンタリーとしても成り立っているかどうか怪しい部分があるのですが、まあそんなことは、ささいなツッコミどころとして流せるくらいには楽しいから良いんですよ!!

あと、感想前段でドキュメンタリー映画と言ったのはまるっきりの嘘ですが、『ベイビーわるきゅーれ』製作秘話ってのはあながち間違いではなく、特に深い因縁や暗い過去もない、それでも現状に燻っているイマドキの若者たる「殺し屋の日常」というテーマはこの時点で完成されています。
取材対象で主人公の国岡ってのが確かに凄腕ではあるんですが、どこかダウナーかつドライな部分があり、殺害相手を間違えたりと割と脇が甘くてドツボにハマりやすく、どうしようもなく俗な生活をしている男でして、彼の日常風景を眺めているだけで面白い。彼は紛れもなく『ベイビーわるきゅーれ』のちさととまひろの原型であり、ちさまひをドッキングさせた上で滅茶苦茶厳つくさせれば、それはもう国岡です

ドキュメンタリー(という体)ともあって、『ベイビーわるきゅーれ』以上に阪元ワールドにおける殺し屋組織の構造が詳しく描かれている側面もあります。
殺し屋の大多数は「組織」に属していまして、そこで専属契約を結んでマネージメント含む細々とした諸々を組織に任せる代わりに必ず組織から回される仕事を行わなければならない者が「リーマン」、仕事に関わる全ての処理や問題を背負う代わりに組織から回される仕事を自由に選んで行う者が「フリー」、そもそも組織に属さず殺し屋稼業を行っている者が「野良」に分けられていることが判明。また私怨による殺人はご法度で、殺し屋追放の措置もあるなどのルールも明かされました。
こうした各種設定開示による世界観拡張という意味でも『ベイビーわるきゅーれ』ファン必見であり、国岡は「フリー」だけど、ちさまひはマネージャー付だから「リーマン」だったんだなァとか、ベビわるのエピローグで語られた京都から来た殺し屋ってのは、もしかしたら国岡周りの誰かかもしれないな…と考察していくのも楽しいです。まあ、世界線が繋がっていればですけれども。

別に『ベイビーわるきゅーれ』を観てなくても、本作だけで多種多様なバリエーションの殺し屋を取り扱っているため、十二分に楽しめます。殺し屋はキャラ付けしてなんぼと言うのは、脅威のかませ犬殺し屋集団・ホワイトベアー頭目(ファッション眼帯のジジイ)の言葉ですが、その通りにまあ揃いも揃って個性が爆発している。
普通のサラリーマンのオッサンみたいなのもいれば、京都ならではの舞妓はんというイロモノもいる。新人の中には皆から嫌われていて実際絡み方がウザいことこの上ないイキリ野郎もいますし、『キック・アス』のヒットガール憧れガールで実際ヒットガールさながらに活躍する可愛い子もいる。
他にもティモシーやら何やらの有象無象、野良にもレイドボスめいた強さを見せる79歳等々どいつもこいつも個性が爆発していてずっとワクワクさせられる。殺し屋バトルロイヤル映画『ある用務員』よりも殺し屋の数が多いので圧巻です。殺し屋図鑑が欲しいレベル。
因みに僕はクソザコそうな見た目の割に強いし、意外に気さくで頼れる殺丸さんが好きです。

基本的なネタは『ベイビーわるきゅーれ』同様の「殺し屋あるある」で構成されていまして、拳銃を無くしたら困るから常に見える場所に置いてあるとか、お弁当やお菓子広げながら優雅に狙撃待ちしたりとかの日常と非日常の境目で展開されるゆる~い殺し屋稼業の光景がかなり愉快。ベビわるはそんな日常を垂れ流しにするゆるふわアニメのような心地がありましたが、こちらはモキュメンタリーのためカメラマン(阪元監督)という明確なツッコミ役というか観測者が存在しており、どちらかというとショートコントのような感じかな。
なので割と一発ネタが多めな印象なんですが、手数は結構多く、一発ネタの宝庫であるため飽きさせませんし、かなり笑いました。まあ一番笑ったのは「金卸してきていいですか?」「みずほはトラブってて駄目ですよ」という奇跡的に時事ネタになった部分でしたが。ひぐらしの魅音・詩音の爪剥ぎネタといい、阪元監督は予期せぬ時事ネタ関係で何か持っているな……!!
一発ネタの宝庫とは言ったものの、話の流れなんかは国岡の日々を追う上で自然に構築されていき、伏線・布石などもしっかり撒いた上で回収しているので、純粋なストーリーの出来もしっかりしていて面白いです。

豊富と言えば戦闘描写もで、派手な市街地での銃撃戦から、人混みでの大虐殺劇、国岡の恵まれた体躯を活かしたパワフルな肉弾戦も見応えがあって良かったですね。
レイドボスの爺を倒す時なんかはFPSめいた一人称でのダンジョン探索やら、シューティングゲームのような狙撃戦が始まりますし、街中のあちこちでポップする仲間と一緒に闘うパートなんかもゲーム脳が刺激されて超楽しかった。
最初に書いたように撮り方は完全にモキュメンタリーから逸脱しており「よくよく考えるとこれは誰がどうやって撮影してるの…?」というノイズにもなるんですが、それでも「こうでもしないと迫力あって面白いアクションは撮れねェ!」と面白さや楽しさに割り切った姿勢をこそ僕は褒めたい。物凄い荒業ではありますが、モキュメンタリーだけれどもアクションがしっかりしている映画として、本作は見事に成り立っています。

あと実質的なラスボスに『一文字拳』の茶谷優太くんが君臨してくれたのが個人的に滅茶苦茶嬉しかったです。阪元作品だと『ある用務員』にも出演していましたが、そちらの役回りはクソザコで主人公と交わることもないまま退場する非常に残念な役回りでしたからね。
対して本作における彼はというと、京都最強と謳われる国岡と互角以上の大立ち回りを繰り広げており、バリバリの存在感を見せつけてくれる!お得意のアクロバットで華麗に舞い上がる脚技の連続で興奮させられ、自分より遥かにデカい国岡に勝る存在感を示します。
パワータイプの国岡の攻撃を掻い潜る小兵としての戦いも良く出来ていて、マウント状態から攻撃を外させ、コンクリートに拳を強打させて大ダメージを与えさせる流れには唸った。

国岡をして「なんだお前、滅茶苦茶に強いじゃないか…!」とまで言わしめた死闘は8分も続き、終盤のワケわからんレベルの速度でお互いに繰り出していく拳のラッシュ合戦が圧巻すぎた…!!
もう人間スター・プラチナと人間ザ・ワールドのラッシュの打ち合いか!?って感じの迫力でして「オラオラオラオラ」「無駄無駄無駄無駄」って幻聴が脳内で鳴りやまなかったからね!!


そんな感じでとことん面白い要素だけで構成されている単純娯楽映画なんだけれども「世間的に求められる『普通』というハードルのあまりの高さに絶望して、自らを社会不適合者と自虐する若者」という極めて現実的な苦悩も同時に描き出されていて、そういう意味でも『ベイビーわるきゅーれ』の原型です。
自らの強さや仕事に誇りを持ち、実際滅茶苦茶強い国岡がカメラの前で語る焦燥感というのは、ドキュメンタリーという手段を取ったからか、はたまたちさまひよりもずっと身近に感じられる造形だからか現実感を帯びており、より一層「それでも折り合いつけてやっていくしかねェな!」という共感へと繋がっていきます。
ある意味『ベイビーわるきゅーれ』よりも共感性は高いような気もしますが、ただね、こういう葛藤とかお話ってのはむくつき男よりも可愛い女の子達がやってくれた方が眼福だなァって部分がありましてね……身も蓋もない本心を吐露するのであれば「あ^~、可愛い女の子達のゆるゆるの日常観て癒されて、凄いアクション観て興奮して、あわよくば共感したいィィィ~~~!!」でして……

『ベイビーわるきゅーれ』の方がすき(ボソッ

オススメ!!!