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ミッドサマーのFilmojaのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.0
不安、哀しみ、畏怖、失望…
幸福、安らぎ、信頼、希望…
そのどれもが、渾然一体となって襲いかかる悪夢のようなカタルシス。

色鮮やかな北欧の夏至祭をテーマに、モラルの崩壊、人間の業、儚い生命と感情の交感など、すべてを白日の下にさらしながら、無意識の浄化へと誘(いざな)う民俗スリラー。
ドラッギーな映像トリップと共に、嫌悪感と高揚感を同時に味わい、多幸感と絶望感が絶妙に交錯する愛憎劇。

一見、ホラーじみた意匠をまとっていながら、その実、人間の背負い切れないトラウマ的な喪失の傷み、苦しみ、悔いといった鬱々とした感情に徹底的に寄り添い、半ば強制的に“共感させる”ような演出は確信犯的だし、だからこそ、小さなコミュニティーの常軌を逸した狂気じみた風習の“正しさ”を肯定しそうになるのが、本作の本当のおそろしさだと思う。

前半の不穏な空気に満ちたダークなテイストから一転、スウェーデンの山村ホルガへと向かう旅へ出発する後半部分での、まるでゴッホの絵画のように狂ったような鮮やかな光の対比。
アリ・アスター監督の前作「ヘレディタリー / 継承」では、暗闇での得体の知れない“何か”による心理的な恐怖を、悪魔崇拝に絡めて鮮烈に描き出した極めてオーソドックスなホラーだった(それが抜群に怖かった!)。
それが今作では輝くような陽光の下、生身の人物たちのカルト信教のような不自然な言動、意味ありげなしぐさ、儀礼的な静けさ、非日常的な儀式によって、真綿でじわじわと締めつけられるような胸苦しさを強いられる。

そして両作品に共通するものは“身近な家族の喪失”だ。
一方では、永遠の別れを死者復活の呪術で埋めようとし、もう一方では、死そのものを“喜ぶべき神聖なもの”としながら、それを共同体全員と共有することによって、魂の浄化へ導く。

恋愛においても同様で、常識的な男女関係や不確かな情愛を信用せず、あくまでコミュニティを維持するために子どもを生み、全員で育てる。
年代別の役割も決められていて、男性は伝統や規律を重んじ、女性は献身や共働に努める。
喪失の傷みも、生の悦びも、みんなで共有しよう。そのかわり、どんなルールも受け入れ、実行しなくてはならないという、究極の全体主義だ。

本作が特異なのは、こうしたグループセラピーのような“孤独の救済”で安らぎを得られる一方で、何かを盲信する危うさも同時に描くことで、観客に認知の歪みを引き起こし、簡単には理解させない構造になっている点だ。
散りばめられた伏線や背景に意味を求め、目線やしぐさに込められた意図を想像する。

鑑賞後は奇妙な陶酔感、爽快感に虜になるか、不気味な嫌悪感、虚脱感に嫌気が差すか、その両方か…少なくともこれまでにない余韻を残すのは間違いない。
危険な中毒性を孕む本作には、R-18+のディレクターズカット版も存在するそうで、ますますこの祝祭に浸りたくなってしまう…。
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