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ひとよのmazdaのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
2.9
3人の子供を残して殺人罪で家をずっと離れていた母親が15年ぶりに帰ってくる。
ジョーカー、楽園、閉鎖病棟、と加害者側の人間にフォーカスした映画を最近立て続けに見過ぎて、いくらこういう題材が好きで自分で好んで見ているといっても、殺人は殺人だからそれなりに病むというか疲れてくる。。だが今作はそういう題材でありながら他作品で感じたストレスのようなものを感じることのない映画だった。

予告がよくできているし、加害者が生まれてしまう環境やその人間性に興味がある私にとってはすごく見たいと思えた作品だっただけに久しぶりに映画館ではずしたなあ、、と思ってしまった作品。
あきらかにシリアスな題材なのに突然入ってくるユーモアあるコミカルな要素。たぶんそれがこの映画にでてくる家族や人々のもつ独特な雰囲気を表していたり、この映画の特徴になってると思うんだけど、とにかくそれがはまらなかった。
せっかく入り込もうと感じにきてる途中でそういう要素を見せられるせいで、遮断されたような感覚を得て、どちらをやりたいのかがわからずまったく感情移入することもなく一方的に見せつけられてる感じで終わった。シリアスさもなければコミカルとしても中途半端、最後になんかほっこり要素まででてきて、派手にいろいろ見せた割には痴話喧嘩くらいの軽さしか感じられない。。。最初から最後までもちろん真剣に見ていたけど正直見終わったあと何を感じたかと問われても、寝てたんじゃないのかって自分で疑ってしまうくらい驚くほど何にも残らなかった。

映画を見ていてすごく集中したりその世界に吸い込むような力があったり人の感情を引き出すのが強い作品というのは良し悪しを問わずに見終わったあと必ず疲れがあり、私はその感覚がすごく好きだ。もちろんゆったりと淡々と流れとくに大きな波のない映画だって好きだが、自分の身の回りではない話、現実世界ではない話なのに自分の考えを重ねてその結果感情を動かされるというのが私が映画が好きな理由であり、悲しくても苦しくても怒りで爆発しそうでもそこまでそうなれるということに面白さを感じる。ただこの映画はそういうこちらの感じさせるタイミングを与えないような感じがあった。
こんなに素晴らしい俳優がでていて、全員がすごいと思える演技で、引き寄せる題材でありながら思ったことが何もないというのがとにかく不思議だった。一週間たてばあっというまに忘れてしまいそうな、すごく苦しい内容なはずなのに、年末の振り返りをするニュースで、ああそんなこともあったね〜と言われてしまうくらいの存在感で描かれていた。

とくに千鳥の大悟が出てくるシーン、好きな芸人を10人あげろと言われたら絶対あげるくらい大悟は大好きな芸人だけど今作に関してはなんで起用したのかもわからないし正直出てこなくてよかった。こういう笑いでいったい何を言いたいのかがまったくわからない。
仕事仲間の家庭事情の描かれ方もものすごく中途半端であってもなくても良かったような印象。記者の次男がずっと溜めていたであろう苦しさからくるうらみとかなんかあまりにもあっさりと解決して、あれそんなもんだったの、、?と思う。15年の距離と重さの空気というのがまったく描かれず、結局どういう風に互いにその問題を受け入れたのかもわからない。

同じように加害者家族に焦点をあてる葛城事件なんてあんなにもそれぞれの抱える苦しさが伝わったのに、今作は、誰々は夢を諦めて誰々は仕事の道を変えって、なんだか表面的な経歴の説明でしか伝わらず、そこにはあの葛城事件にあったような、描かれない範囲さえもほんの少し想像しただけで苦しいというような、伝える力というものに圧倒的な差を感じた。
こういうものを比べるのは違うと思うが物理的に視覚的に苦しさを感じるのは葛城事件よりも圧倒的に今作だと思うのだが、そこに頼り切ってるせいで精神的に感じさせるものが今作は圧倒的に弱い。葛城事件の家族に家族愛なんてまったくなかったし、ほっこり要素がある今作との差なのかとも思うが、例えば同じように家族愛を強く描く是枝作品なら、その人の傷みや人と人の溝、それが少し近づく瞬間も、派手な結末や目に見えてわかる苦しみなんか描かなくても自然にしっかりと伝わってくる。この映画は視覚的にわかりやすい描写に頼り切ってるせいで、きもちでじわじわと感じるようなものがまったくないのかもしれない。
そんな軽い話じゃない、しんどくても自由になれると信じ生きてきた15年なはずはのに、結果としてめちゃくちゃ薄っぺらい印象を受ける。そんなわけないとわかっているのに、そう思えてしまう。

鈴木亮平がずば抜けて良かったと思う、松岡茉優は一緒にふとんで寝るところとか万引き家族での姿とすごいかぶる、この子の雰囲気がお母さんっ子とかおばあちゃん子とか、決して家庭的な雰囲気ではないのに家族というものを強く感じさせる空気をもってるなあと思う。しゃべくり007に出演してたとき、青春ラブストーリーみたいな作品に使ってもらえないという悩みを話していたけど、この家族色の強さのせいな気がする。俳優の良さでもってるような映画、好きな俳優じゃなかったらもっと低いと思う。
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