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風の電話のminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

風の電話(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ヒロインは9歳の時に東日本大震災で家族を失い、その後は広島の叔母のもとで育てられた。やがて高校生になったヒロインがある日帰宅すると叔母が倒れていてそのまま意識不明の重体となり......という話。
岩手県大槌町に実在し、亡き人と対話できるという「風の電話」を題材にした作品。

心に傷を負っているヒロインが旅で同じような境遇の人々出会うことで成長していく様子を描いた映画。役者陣の言葉少なめな静かで自然な演技とゆったりとした進行のストーリーによって被災者の現在を真摯に描いている。
毎朝出かける前に玄関で叔母と抱き合ってその存在を確認してからでないと外出も困難なほど不安定なヒロインがひとりヒッチハイクで岩手まで旅をしていく設定。正直、最初の30分はあまりにも話が動かず退屈だったのだが、西島秀俊演じる元原発作業員が登場するあたりから徐々に引きこまれていった。彼が震災中にお世話になったトルコ人ボランティアを探すエピソードだけで涙が出てくる。無愛想で当初はヒロインを途中まで送ると言っていた彼が結局岩手まで同行するのも観ていて心が温かくなった。「お前が死んだら、誰が家族のこと思い出すんだよ」という言葉が印象的だった。

最後まで楽しめたのだが、全体のテンポはやや悪く、ヒロインの感情を表現する演出には所々難があったように思えた。ヒロインが重体の叔母を残して半ば衝動的に旅立つのも違和感があった。それならまだ叔母が死去するほうがきっかけとして納得できかもしれない。女の子ひとりでのヒッチハイクで、知らない男に家に着いていったり、財布を渡したりとヒロインの行動もかなり無防備。あとは三浦友和の家族の話か妊婦のエピソードのどちらかは削ったほうがコンパクトにまとまったのでは。風の電話の場所に同行した男の子の存在も中途半端に感じた。

主演のモトーラ世理奈は「少女邂逅」で初めて見たのだが、とにかく個性的で本作でも難しい役柄を上手く演じていた。脇を固める俳優たちが何気に豪華で驚かされた。

この映画、観る前は死者と対話するホラーかと思っていた(^^)
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