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正欲のminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

他人には言えないある性癖を抱えるヒロインは、同じ秘密を共有する中学の同級生と地元で再会する。二人は社会とうまく適合して生きていくために偽装結婚を選択する。故郷の岡山を離れ横浜で新たな日々を送る二人だったが、ネット上で知り合った知人が起こした事件をきっかけに平穏な暮らしに暗い影が落ちてしまい......という話。
朝井リョウの原作小説は未読の状態で鑑賞。

昨今、世間で広まりつつある多様性やマイノリティを扱いつつも、単にそれだけではとどまらず、それを超えた次元の孤独や理解されない残酷さを描いた問題作。
登場人物の立ち位置が多層構造でできていて、いわゆる一般層からはじまり、不登校やトラウマからの男性恐怖症といった問題に苦しむ当事者とその家族が物語上に配置されていて、さらにその上に常識的には理解されがたい価値観を持つヒロインらが存在するところが奥深くてひきこまれる。群像劇で説明的な描写は少なく、役者の芝居で徐々にテーマに迫っていく作りが圧巻だった。
稲垣吾郎演じる検事はひと昔前の考えに縛られていて社会的弱者や社会のレールから外れた者の気持ちに寄り添うことができない冷徹なとして描かれていたが、不登校の息子の問題に直面し自らの家族をかえりみない姿勢からやがて家族の崩壊を招いてしまう。その苦い経験から社会問題への理解を多少なりとも深めた検事でさえ、ヒロインらの価値観は全く理解ができないという結末に衝撃を受けた。それでもヒロインとその同級生のお互いを性的な対象として認識していないにも関わらず深い部分で絆を感じている関係性には心を打たれたし希望を感じた。あと、男性恐怖症に苦しみつつも同級生の男子学生に想いを寄せる女子大生の独白のシーンは鬼気迫るものがあってすごかった。
YouTubeでの交友をきっかけに水フェチの3人は逮捕されるわけだが、普段ネットで見知らぬ相手ともコミュニケーションをとる機会も多い身からすると他人事とは思えない状況に感じた。実情がどうなっているかは分からないのだが、もし3人のチャットの履歴が残っていれば3人のうち2人は性犯罪に関わっていないことは証明できるのではないかと。ただ、隠された性癖があらわになって社会的には抹殺されるのかもしれないが......
重いお話ではあったが、水フェチたちを出合わせたSATORU FUJIWARAチルドレンやサークル名スペードに所属するのが大也(ダイヤ)というセンス、あと地球に留学しているというセリフにはワクワクさせられた。

人に知られたくない秘密を抱えているのにずっと実家暮らしなヒロインと、男性恐怖症なのに共学の大学に通っている女子大生の設定は違和感を覚えた。原作ではなにか理由が語られているのかなあ。
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